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岡田圭子さん 4/4

4. 企業が京芸生に求めているもの

企業が京芸生に求めているもの

interviewerシャープをはじめ企業が芸大生に求めているものはなんでしょうか。

岡田 それは2つですね。 1つは世の中の流れとか、生活者の方々の変化について、「何が変化しているのだろう」、「その中で何が求められているんだろう」ということを把握する力です。

 あと、ベースのスキルというのは企業に入ればみんな勉強できます。失敗もあるかもしれないけど、どんどん素材の特性とか金型の条件とか勉強していくんです。それよりも、デザイナーに何を求められるかというと、「美しさを創りだす力」ですね。これが2つ目です。アウトプットされるものが、やっぱりー般のお客さんが見て、「すっごいきれいだなぁ」と思うものが出せなかったらデザイナーではないですよね。美的センスというか、造形力というか。ユーザーの方々は目が肥えていってますから、それを超えるクリエイティブな美ヘの執着が必要です。

 この2点は、デザイン専攻の学生にとってはすごく大事ですね。

interviewer大学生の間にやっておいた方がいいことはありますか。

岡田 よく先生からも言われましたけど、やっぱりいいものを見て目を肥やすということでしょうね。あとは自分のやりたいことを一生懸命やるということです。何をやっても後で糧になりますから。それからなんでも関心を持ってやってみるということも、きっと後から生きてきます。私もそうですが、企業に入って3年たったらその企業の人間になるでしょ。カテゴライズされてくるというか、愛社精神が出てくるし、家電のことだけ詳しくなっていきます。それまでにどれだけ違う幅を持っているかが大切ですね。

京芸生と未来の京芸生へのメッセージ

岡田 世の中の流れとは逆行しているかもしれないけど、手を動かして形を作り出すということをやっておくというのは、すごく大事だと思います。どんどんコンピューターの方に行っていて、パソコンの中では作れるけど、自分の手では描けない、自分の手では作れない、というのは少し違うんではないかなと思います。

interviewer私は染織専攻なので,手を動かすことをたくさんしているのですが, コンピューターが使われるようになる中で,染織はどうなっていくんだろうねと友達と話すことがあります。

岡田 手を動かして作り出すというのは、学生の時しかできないことでもあると思います。会社に入るといろんなことを全てパソコンでやるでしょう。私がデザインの担当者に言っているのは、「怖いのはパソコンに向かうとある程度のことが形になってしまう」ということです。人間の手が作る形とパソコンが作る形というのは違うんですよね。自分の中でここはこういう形にしたいというのがあって、それからパソコンに向かうんだったらいいんだけれど、ぱっとパソコンに向かって適当に形をつくって、機械の線で物ができてくる、それってあんまり人の感動を呼ばないんですよね。やっぱり、美しさをつきつめて形を作りだすということをしっかりやっておくべきですね。

 あと、製品にするには、素材も考えないといけないですよね。そういう時にも、頭の中で考えるんではなくて、違うものでもいいから買ってきて、この素材がいいというものを当ててみるとか、これとこれは合うのかとか、実際のものでやってみてほしいですね。それを頭の中で適当にやっていても、パソコンだと出来上がってしまうから怖いです。

 ツールだからパソコンを使えないと困るけれど、パソコンが使えるからいいものが作れるとは言えないですね。ヨーロッパのデザイナーとかで、本当にきれいなものを作る人の作品はものすごくその部分があります。形をつくる専門家などもいて、形をつくってからそれを図面に落としていくというやり方なんですね。

 また、社会に出て働こうと思ったら人とのコミュニケーションというか、一緒に働きたいと思ってもらえて輪が作れる力が必要ですね。人を動かす力はすごく大事ですからね。デザイナーは企業に勤めるので、その辺をやっぱり意識しておいた方がいいと思います。

インタビュー後記

インタビュアー:美術学部 染織専攻2回生 城田香菜子

 「美しいものを追求すること」「求められているものをつくること」それは基本のようで、永遠の課題です。

 今回お話をして、岡田さんはまっすぐな人だと感じました。上記のことを、学生の頃から追求していらっしゃるそうです。私も京芸生ですから、勿論それらのことは頭において制作にあたりますし、受験生の皆さんもそうでしょう。しかし、私達の親ほどの年齢になるまでそれを追求し続けるというのは、なかなかできないことではないでしょうか。

 素材に実際に触れることや美しいと思うことを大切にする姿勢、チームで創る喜び。私が染織専攻やミュージカルグループでの活動の中で体感していたそれらのことが、岡田さんも京芸生の頃から大切にしておられたと聞き、嬉しかったです。

 受験生や在学生の中には、今していることが将来生かされるのか不安に思う人もあるでしょう。しかし、確かに学生の今、学んだことは将来生かすことができると、このインタビューを通じて感じました。

Profile:岡田圭子【おかだ・けいこ】シャープ株式会社 執行役員

京都市立芸術大学美術学部デザイン専攻卒。昭和53年シャープに入社し、主に生活家電のデザインや企画部門を歩む。調理システム事業部長を経て、平成22年10月からオンリーワン商品・デザイン本部長兼ブランド戦略推進本部長、23年4月から執行役員、24年4月からブランド戦略推進本部長 執行役員。