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山口高志さん 3/4

3.テレビ番組をデザインする

デザインとアートの違い

紅白歌合戦(2011年)のステージデザイン

interviewerスタジオのデザインは、どのようにして出来上がっていくのですか。

山口 デザインとアートの違いという話になると思います。アートとは「問いかける」行為ですが、デザインとは、条件とテーマがあって、それに対して「答えを出す」行為なんですね。条件というのは、スタジオの設備や広さ、設営時間といった物理的条件や予算です。それと番組のテーマですね。老若男女を対象にした大晦日の歌番組なのか、コアなファンに届けたいマニアックな番組なのか。それらの条件に照らして、「一番ふさわしいのはこれです」と答えを出すのがデザインです。自由な表現で何でもありということではなくて、間違った表現、伝わらない表現、誤解を招く表現という「不正解」がありますので、そこはやらないように、求められているベストの正解を出していくという醍醐味はあります。壮大な謎解きみたいですね。

interviewerスタジオセットのデザイン以外には、どういう仕事をされているんですか。

山口 一つ例を挙げますと、一昨年〜今年の紅白歌合戦では、「デザイン統括」という、番組に関わるデザインをトータルで計画していくという役割を担っています。まずその年のキーワードを、PR関係の専門スタッフと一緒に練り上げていきます。それで、最終的にスローガンロゴ、レギュレーションを僕が作り、10月くらいから展開されるPR活動のビジュアルを管理していきます。

 次に、たとえばWEB展開でどういうことをやれば面白いのかを考えて、昨年は日替わりでAKB48のメンバーが「紅白本番まであと何日」というフリップボードを出していくという、「日替わりAKB」をやりました。その日替わりカレンダーで必要となる全ての数字のオリジナルフォントのデザインもやります。

 これらと並行して、ステージのデザインのセットを考え始めます。昨年紅白歌合戦は、「はじまりのかたち」というテーマで、正三角形をステージセットの基本モジュールとしました。点と点があり、それが繋がると線ができて、それにもうひとつ点ができてそれが繋がると三角形になる。点と点が繋がって最初にできる多角形、最初のコラボレーションの形という意味で三角形を選びました。その形はどんどん点が増え、ネット状に繋がることでグローバルな形に発展していきます。去年は、震災があり、ものすごく悲しい年でしたが、一方で人と人との絆、個人と個人のつながりがすごく見直された年でもありましたので、「はじまりのかたち」の「三角形」をキーモチーフにして、そこからステージデザインをふくらませるという方針を決定しました。

 最近のステージセットは、大規模な映像装置を用い、ステージを映像でマッピングして、その映像を変えていくことで、観客を飽きさせずに見せていくという方法が主流化しています。その中でもできるだけ迫力があって、半端じゃないものを作りたいと思い、構造的にあらゆるところに映像が映し出される三角形の集合体のステージをデザインしました。ここまでの一連のコンセプトワークが「デザイン統括」の主たる仕事です。

 紅白歌合戦は、50曲ほどありますから、その後、その1曲1曲のステージ映像やセット転換のディレクションをしていきます。

アイデアの生み出し方

interviewerお仕事をされていて辛いことはありますか。

山口 辛いことや苦労はあんまり感じないんですよね。しかし、フリーのデザイナーではなく、大きな組織のデザイナーなので、その時々で命令を受けた担当業務や勤務地につかないといけません。必ずしも自分が描いている通りにならないこともありますが、人や番組との巡り合わせを大事にしています。

interviewer生みの苦しみはありますか。

山口 生みの苦しみというのはありますけど、ありがたい悩み、苦しみだと思いますね。これだけ面白い機会を与えられて、いい形が生み出せずに悩むというのは、贅沢な苦しみです。

interviewerそういう時にどうやってアイデアを生み出されるのですか。

山口 やっぱりひらめきというか、決まるときって一瞬なんです。ドローイングをずっとやっていてもダメなときはダメなんですよね。仕事場を離れて、ちょっと街を歩いている時にアイデアが降ってくる場合もあるんですけど、じゃあ仕事を忘れてりゃいいのかっていうとそうでもないと思います。多分四六時中、意識下のところも含めて頭のどこかで考えているんだと思うんですよね。思考を持続していることが大事だと思います。

 あとはコミュニケーションですね。やっぱり、紅白歌合戦なんかは巨大なコラボレーションですし、デザインワーク自体もチームでやっています。ディレクターやプロデューサー、照明家やカメラマンがいて、僕の仲間として美術スタッフがいて、その中に、大道具さんや、CG担当、デコレーションライティングのチーム、映像機材をオペレートするテクニカルチームもいます。

 彼らと「どんなものを目指せるのか」ということを話し合っているうちに、漠然としていたものが形になったり、最初の思い込みを突破するような、新しいアイデアが生まれることもあります。コミュニケーションは一番の「肝」ですね。

インタビュアー:美術学部 デザイン科1回生 藤川美香

(取材日:2012年10月20日)

Profile:山口高志【やまぐち・たかし】NHKデザインセンター チーフディレクター

1991年、京都市立芸術大学・大学院美術研究科修士課程絵画専攻(油画)修了。同年、NHK(日本放送協会)入局。現在、NHKデザインセンター映像デザイン部チーフディレクター。
国民的番組である紅白歌合戦(1998/1999/2003/2010~2012)をはじめ、宇多田ヒカル~今のわたし~(2011)、桑田圭祐~55歳の夜明け~(2011)、YMONHK(2011)、プロフェッショナル仕事の流儀(2005)、夢・音楽館(2003~2005)、ニューイヤー・オペラコンサート(1997/2002/2010)、細野晴臣イエローマジックショー(2001)、ニュース10(2001~2001)、爆笑オンエアバトル(1999)などNHKを代表する番組のデザインを手掛ける。2006年、優れたテレビ美術に贈られる第34回伊藤熹朔賞『本賞』をNHK番組「音楽・夢くらぶ」で受賞。