閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

山口高志さん 4/4

4.今に生きる京都芸大の経験

仕事の楽しみ

interviewerお仕事されていて一番楽しいことや達成感を感じるときはどんな時ですか。

山口 テレビはまだまだ魅力的なメディアだなと思います。今は、インターネットがあって、動画配信サイトは僕も便利でよく使いますけど、基本的には自分で選択して、見たいときに見たいものを見るというものです。テレビは、録画して見る方法もありますけど、例えば、オリンピックとかワールドカップなどは、同じ時間に日本中が喜怒哀楽を共有しますよね。同時に非常に多くの人に届けられるものを作っているというロマンがあります。

 テレビは出演者やそのパフォーマンスが見ている人の心に刻まれます。決してデザインが主役ではないのですが、番組の空気やショーの流れを確実に作っています。それが同時に何万人という人に届き、僅かでも記憶に刻まれていくとすれば、それはこの仕事の最大の喜びです。

interviewerなにか気分転換にしていることなどはありますか。

山口 リビングルームは本当に気に入った家具だけを置いて、できるだけ心地良い空間にしています。仕事が終わって家に帰り、そのリビングで芋焼酎のロックとチョコレートを嗜みながら、一視聴者に戻って民放も含めてテレビを見る時間が、一日をリセットしてくれます。

 あとは、最近フェイスブックを始めました。同世代の人が多く始めていて、京都芸大の仲間と20年振りに繋がったんです。日々、プチ同窓会な気分なのですが、素敵な大学だったなとつくづく実感しています。

今に生きる京都芸大の経験

山口 在学中は、京都芸大の制作室に籠って制作して、して、しまくっていました。整えられた創造的な環境で、ずっと制作し続けられたことはとても貴重だと思います。

 それと現代アートの勉強をしてから、デザインの仕事に就いたのは自分にとって大正解だったと思います。それは、現代アートの表現の大胆さや極端さ、本当に必要なものだけを表現する割り切り方の良さ、インスタレーションにおける映像とライティングのコラボレーション、ミクスチャーのテクニックなど、アートから学んだことは大きかったと思います。少し違った回路で発想ができるという強みは今も感じています。今でも展覧会などにまめに行って、アートには年がら年中触れています。

公共放送の新しいブランディング

interviewer今後はどういったことがやりたいですか。

山口 今の仕事は、何年やっても奥の深い仕事で、それ故に面白さを感じています。今後は、番組デザインを一つの文化として成熟させ、その知的価値を高めたいという思いが強いです。

 もう一つは、デザイン貢献の領域を拡げていくことですね。NHKは、番組づくりそのもの以外に、放送と通信の複合サービスや集客イベント、あるいは講座や見学会をとおしての生身のコミュニケーション等、多くの顔を持っています。これらに幅広く参画していくことで、「NHKの印象」をトータルデザインしたいと考えています。つまり、公共放送のブランディングですね。僕も入局22年目、年齢も40代半ばを過ぎたので、自分の所属する組織が社会においてどのような役割を果たしていくのかを考え、より広い視野を持つ必要が出てきているように思います。

受験生と、在学生へのメッセージ

interviewer受験生へ

 京都市立芸術大学は京都に位置する芸術大学ですが、京都で美術を学べるというのは、すごく魅力的だと思います。僕が京都で学生時代を送っていた時期は、様々なものがメジャー・マイナーという概念を超えたところでにぎわっていて、古いものと新しいものが同居していました。そういった場で学生生活を送れるというのはすごく貴重だったと今になって思います。

 もし今、目指すべきものが明確でなかったとしても「美術が自分のアドバンテージだ。」と思うのであれば、京都芸大に入って、在学中にその中で自分はどういうところに行きたいのかを熟考して、いろんな人との出会いの中で見定めていく、発見していくという学生生活の送り方は有意義だと思います。社会の中で、美術で何かを果たしたいと思っているんだったら、ぜひ京芸を志して欲しいと思います。

interviewer在学生へ

 この大学へ入ってボーっと過ごすのはあまりにもったいないです。描いて、描いて、描きまくって、制作三昧の学生生活を送って欲しいですね。まず、制作、制作、制作。あと見る、見る。で、ちょこっと語る。じゃないですかね。僕は同級生にも恵まれて、いろんなアーティストを友達から教わったり、友達の作画を見て学んだり、お互いに情報を交換して一緒に展覧会を見に行って、語り合ったりしていました。社会に出ると制作に没頭できる期間はそうあるものじゃないので、学生の間は全力で制作に没頭して欲しいです。きっと結果は出ますから。

インタビュー後記

インタビュアー:美術学部 デザイン科1回生 藤川美香
(取材日:2012年10月20日)

 山口さんがNHKでの番組デザインのお仕事について詳細にお話しくださり、映像だけでなく、スタジオセットや番組宣伝の企画、ロゴデザインなど、お仕事の範囲がとても幅広いものであることが分かりました。また、山口さんは在学中に油画専攻で現代美術の作品を制作されていて、その経験が今のデザインのお仕事に生きているとおっしゃっていたので、幅広く美術を勉強する大切さも改めて実感しました。

 山口さんは、「今後NHKという組織のブランドイメージを創っていきたい。」とおっしゃっていました。学生の頃から自信を持って制作されていたという山口さんは、常に大きな夢を持って進まれていると感じました。私は大学に入学して、日々の課題しか見えていませんでしたが、このインタビューを通してこれからの大学生活、そして卒業後の進路について真剣に考えるきっかけをいただくことができました。今後、長いようで短い4年間の大学生活を、有意義に過ごしていきたいと思います。

Profile:山口高志【やまぐち・たかし】NHKデザインセンター チーフディレクター

1991年、京都市立芸術大学・大学院美術研究科修士課程絵画専攻(油画)修了。同年、NHK(日本放送協会)入局。現在、NHKデザインセンター映像デザイン部チーフディレクター。
国民的番組である紅白歌合戦(1998/1999/2003/2010~2012)をはじめ、宇多田ヒカル~今のわたし~(2011)、桑田圭祐~55歳の夜明け~(2011)、YMONHK(2011)、プロフェッショナル仕事の流儀(2005)、夢・音楽館(2003~2005)、ニューイヤー・オペラコンサート(1997/2002/2010)、細野晴臣イエローマジックショー(2001)、ニュース10(2001~2001)、爆笑オンエアバトル(1999)などNHKを代表する番組のデザインを手掛ける。2006年、優れたテレビ美術に贈られる第34回伊藤熹朔賞『本賞』をNHK番組「音楽・夢くらぶ」で受賞