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釜野真理子さん 3/4

3.ブータンで美術を

JICA(青年海外協力隊)として


 

interviewerJICA(青年海外協力隊)に入るには、どのような審査があるのですか?

釜野 まずは書類審査です。審査を通過すると、東京で面接と語学の試験があります。

interviewerブータンの国語は何語なのですか。

釜野 ブータンでは谷ごとにちがう言語が話されていますが、国語はゾンカ語という、チベット語から派生したような言葉です。でも、教育は基本的に英語でなされています。ニュースはゾンカ語と英語で流れるんですよ。

interviewerでは、子どもたちも英語を話せるんですか。

釜野 小学2〜3年生くらいになったら日常会話は普通に出来ていますね。

interviewer現在のブータンの美術教育は、どういう状態なのですか?

釜野 ブータンは、伝統芸術は残っているんですけど、いわゆるファインアートは全然入ってきていないんです。伝統芸術は、決められたものを伝承していく事が目的なので、そこに個性を入れた自己表現は求められていない。そこには独自の美しさや素晴らしさがあります。けれど今まで学校教育の中に、図画工作や美術という授業がありませんでした。現代美術の美術館もありません。そこで、情操教育に力を入れたいブータン政府が、美術の教科の立ち上げを目指し、JICAに支援を要請し、私が行くことになりました。

interviewerJICAでは、職種や行く先などを自由に選べるのですか?

釜野 職種は、何十種類もある中から選ぶのですが、その中で「美術」もあります。いろんな国の美術に関する要請が出ている中にあった「ブータン王国の教育省の美術カリキュラム等、新規教科の立ち上げに関する活動」に応募しました。行く国も希望を出すことが出来ます。

interviewer現地の子どもたちとの交流はありますか。

釜野 それが、あまりないんです。今は、子どもたちではなく、大人に美術を教えています。一緒に美術のカリキュラムを作っている現地の先生たちは、絵やものづくりが好きな先生の中から選出されたのですが、誰も美術の教育は受けたことがないので、そういう先生たちに教えています。

interviewerじゃあ、今笑わせる相手は、現地の先生?

釜野 そうですね。でも私の周りのブータン人は明るくて面白い人が多くて、逆に笑わされることが多いです。勉強になります(笑)。

ブータンの教育



釜野さんの住むパロの町の全景

interviewerブータンの義務教育などの体制はどのような感じなのでしょうか。

釜野 ブータンは、教育は無料なんですけど、義務教育ではないんです。つまり、誰でも学校に行けるけれど、行かなければ学べないという環境です。

interviewer小学校が何年間とか、学年の区切りというのはブータン独自のものですか?

釜野 基本的にはPP(プレ・プライマリー)という、日本でいう保育所や幼稚園の年長さんから始まって、12年生、つまり高校3年生までの13年間あります。でも、PPから小学6年生までしかない学校だったり、中学校3年生までとか、また別の学校は中学と高校だけとか、または高校だけとか、学校によって区切りが様々です。

interviewerでは、学年は基本的に年齢で分けて、学校の規模などに応じて対象年齢が様々だと。

釜野 いえ、入学してくる年齢もそれぞれ違うので、同じクラスにいろんな年齢の子がいるんです。基本的には6歳から入学出来るのですが、7歳になって入学する子もいれば、家庭の事情でもっと遅くに入学する子もいます。小学校から落第もあるんですよ。小学2年生をもう一回やっている子もいるし。

interviewerどんな年齢でも、入学したら1年生からスタートなんですね。

釜野 そうです。何歳でも同じことを習います。たとえば3年生になったらこういう難しいことをするから、2年生のうちにこれはできるようになりましょう、という感じです。それをちゃんとできなかったらもう1年、同じ学年で授業を受けます。「何年生」というよりは「何級」という感じに近いです。

interviewer同学年でも年齢が異なると、足並みが揃いにくそうですね。

釜野 そういった意味では、日本は皆さんが思っている以上に教育水準が高いと感じます。ブータンでは、先生でもハサミの使い方を知らない方がおられます。日本は、食や生活に関する事も、学校などの集団生活の中で学ぶし、きれいに物を使うとか、些細なことも共通して学べている部分が多く、その質は高いと思います。

interviewer逆に、日本より優れていると感じるところは?

釜野 ブータンの子どもたちは、先生を凄く尊敬しています。挨拶もきちんとしますし、先生の前を通らない、目上の人とはちゃんとした言葉使いで話す、などといった礼儀がしっかり身に付いているところです。私がたまに学校に手伝いに行ったりしたら、子どもたちが敬意を込めた態度で接してくれるのは、とても嬉しいですし、感心します。

ブータンでも、お祭り!



芸術祭『ZORIG GA-TOEN2012 パロ楽芸祭』の児童生徒作品展にて、生徒の鑑賞会の様子。

interviewer釜野さんが今ブータンで、一番自分を発揮できているなと思うのはどんな事ですか。

釜野 普段の業務は時間的に余裕があるのですが、かといって何もしないのは自分を持て余してしまいます。そこで、お祭りをしようと思いました(笑)。私が住んでいる町の会場を借りて、芸術祭を企画して、2012年の春にやりました。

interviewer芸術祭では、どんなことをされたんですか。

釜野 私がそれまでに現地の先生と一緒に作ってきたカリキュラムを、試行錯誤を重ねて磨き上げていくうちに、「美術教育を受けて、こんな作品を作りました」と、美術教育の成果が目で見てわかるものを発表したいと思うようになっていきました。そこで、会期を2回に分けて、前期は現地のものづくりが好きな方々の作品発表を、後期は協力隊の美術講師が教えた子どもたちの作品展をしたんです。ブータンで作品発表をできる場所は皆無に等しいけれど、ものづくりは好きだという人が多いから、「誰でも、作品があれば参加してください。売りたい人は売ってもいいですよ。」と呼びかけました。

interviewerブータンの方に、自分が携わった美術教育の成果を見てもらえる機会ができたんですね。

釜野 はい。子どもたちの作品展が実現できたのは本当に良かったと思います。ブータンの人々は昔から変わらない生活をされていて、自分で発想を膨らませて何かを作る機会は、他の国に比べて少ないと思います。まだ経験したことがないことを、いくら言葉で説明してもわからない。だから実際に作品を並べて、観てもらいたかったんです。

インタビュアー:美術学部 日本画専攻4回生 町田藻映子

(取材日:2012年11月5日)

Profile:釜野真理子【かまの・まりこ】JICA青年海外協力隊

京都市立芸術大学美術学部染織専攻卒業。小中学校の図工の講師等を経て、現在は青年海外協力隊(JICA)としてブータン王国の玄関口となるパロに在住。教育省のカリキュラム局にて、ブータンで初めての美術科目の立ち上げに携わっている。