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皆川魔鬼子さん 3/4

3.服飾の仕事に大切なこと

服飾の仕事をする上でのアドバイス

interviewer2002年から2006年まで,美術大学で学生を教えてらしたんですよね。

皆川 お仕事でいろんな企業や大学に行っているうちに,教員のお話をいただいてお引き受けしたんです。

 普段は衣服を生地から開発して生産するという企業の現場にいるでしょう。その大学の授業で,手わざは丁寧にたくさん教えているけれども,企業では全然違う機械を使っていることが気になったんですね。そこで,衣服を生産するための仕組みを理解して,企業で使う機械と同じものを使いこなせる学生を育てれば,学生が社会に出た時に現場ですぐ動けるのではないかと思ったんです。「美術」と「実際の制作現場」,「創造的な制作」と「実践的な制作」,両方学んでもらうと学生も楽しいだろうし,企業人から見て,大学が現場がわかる人材を社会に送り出すことは,非常に有意なことですし,育て甲斐がありました。

interviewer作品を作る上で,「これは絶対必要!」ということ一つを教えてください。

皆川 綺麗にできていること。特に仕上げ。フィニッシュが汚いのは致命的です。学生は時間があるから絶対きれいに美しく作れるはずです。

 衣服は,ずっと近くから見て作っていたらダメなんですよ。2~3mぐらい離れたところから見て,しっかり主張できるものを作る。そこがきちっとできていないと,商品なら買うどころか手にも取ってもらえません。

interviewer私は今デザイン科の課題で,段ボール製の子供用の椅子や,小説の登場人物のフィギュアの制作などをやっていますが,綺麗さと丁寧さは,毎回の授業で絶対求められます。

皆川 綺麗さを求めるというのは,例えば染色する時でもね,混色して自分で色を作る時は,やっぱり綺麗な色を作ろうという意識を持って欲しいということだと思います。綺麗さ,美しさ,それはやっぱり作品の武器だから,どんな場面でも追及してくださいね。

 また,作る環境も綺麗にしてください。綺麗な作品は,綺麗な環境でこそ生まれます。染工場の技術者さんたちもおっしゃっていましたよ。「現場を汚くしていたら次の仕事ができないよ」と。

テキスタイルデザイナーとしての考え方



写真は,「フィッシャーマンノット 結び」を表面に出すことで,あたかも手作業の「かご結び」のように表現した糸と,その糸を使った2013年春モデルのワンピース。1本の糸からカラフルな織物やニットが生まれます。© HAAT/ISSEY MIYAKE

interviewerファッションは流行もあるし,移り変わりのスピードがすごく速い世界だと思うんですが,まず最初に必要なテキスタイルが担う役割は,どういったものでしょうか。

皆川 テキスタイルの仕事は,生地を作るだけじゃなくて,生地を染めるロット(最小製造単位)がどのくらいかとか,何百,何千メートル染めた生地でどのくらいの服を作って,どのくらいの値段設定にするから,原価にかけられる金額はこれぐらいだとか,そういうことを考えたり,生産現場と交渉したりする必要があります。だから,全体を考えてやらないといけない仕事ではありますね。

interviewer皆川さんがテキスタイルをデザインする上で心がけていることを教えてください。

皆川 この本,「一生たち―Issey Miyake & Miyake design studio 1970‐1985」(1985年 三宅デザイン事務所)は,三宅デザイン事務所にはどんな人たちが集まっているのか,どういう考え方でやっているのかというのを作品と一緒に一冊にまとめたものなんです。私が書いた部分をちょっと紹介しますね。

ちょっとした禅問答みたいなところがあります。たとえば,三宅が,「冬に白」といいます。冬に白,それだけ。氷の白なのか,塩田の白なのか。李朝の白なのかもしれないし,案外,雪の白だったりするのかもしれません。ふつうの禅問答なら,間髪容れずに,そこに答えがあるのでしょうが,私の場合,一年ほどかけて,やっとその問答が閉じるということになります。といいますのも,テキスタイルの仕事というのは,原料の段階からひとつの素材をつくるまでに,どうしても一年はかかってしまいますから。(「一生たち」より)

私も思いつくまま書いた文章ですけど,大体こういう考え方で私はテキスタイルをやってきているんです。「白い服のための生地を作って」と三宅さんに言われたときに,どういう白いが良いと考えていらっしゃるのか,同じ次元に立って考えてながら進めていく必要があると考えています。この本で,「もし,イッセイ・ミヤケという一般的なイメージがあるとするならば,その呼吸の幅やリズムのことをいっているのではないでしょうか。」と表しているんですが,そういうものを大事にしています。

インタビュアー:美術学部 プロダクト・デザイン専攻 3回生 吉田絢子
(取材日:2012年11月16日)
(取材場所:株式会社 イッセイ ミヤケ 本社)

Profile:皆川魔鬼子【みながわ・まきこ】テキスタイルデザイナー,株式会社 イッセイ ミヤケ 取締役

京都市立美術大学(現京都市立芸術大学)美術学部 染織科卒業。在学中より自分のアトリエをもち,染織作家としての創作活動を始め,数多くの作品を発表。
1970年に三宅一生氏と出会い,翌71年から(株)三宅デザイン事務所でテキスタイル・ディレクターを務める。
2000年(株)イッセイ ミヤケの中にブランド「HaaT」を創設,トータルディレクターとして,新製品のプロモートを始め,現在に至る。
2002~08年 多摩美術大学美術学部 生産デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻 教授,2008年〜 同客員教授,2013年〜 京都市立芸術大学 客員教授。
織物(テキスタイル)デザインでの活躍はめざましく,素材の元となる糸まで辿り研究を重ねている。国内外の伝統的技術を現代的に応用し,加工方法や新素材を開発するなど,リサーチと研究から新たな布地を作り出す。そのアプローチと作り出される布地は,ファッションデザインの世界にテキスタイルの新たな存在を確立するきっかけとなってきた。
主な受賞に,第8回毎日ファッション大賞の第1回鯨岡阿美子賞(90年),イギリス「TEXTILE INSTITUTE」から「COMPANION MEMBERSHIP」を授与(95年),毎日デザイン賞(96年),第25回京都府文化賞功労賞(2006年)受賞。
著書に,『テクスチャー』(講談社,1987年)。