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高嶺格さん 3/4

3.ダムタイプとの出会い

interviewer京都芸大在学時にダムタイプに入られたきっかけは。

高嶺 高校生のときの夏期講習で出会った小山田さんや泊さんとのつながりですね。京都芸大に入学した後に,お二人に連れられて,ダムタイプの事務所に出入りするようになりました。
 当時,僕は,芸術に対して,ガツガツしている学生でした。いろんな芸術論にすごく興味があったんですが,高校を卒業したばかりで,全然分からなくて。そういう話がしたくてたまらなかった。だけど,同級生と話していてもいまいち盛り上りませんでした。そんな中,ダムタイプは,突き抜け感というか,勢いがあって,僕のそういったグジグジした質問みたいなものを,跳ね返してくれる人たちの集まりだったんですね。そこから,どんどんその事務所で過ごす時間が長くなりました。中心メンバーは僕より5つ,6つくらい上の人たちで,当時はすごく年上の先輩だと思っていましたが,そういった年齢や経験などは関係なく,たくさん話をさせてもらいました

interviewerダムタイプの活動の中で特に思い出に残っていることはありますか。

高嶺 一番多感なときに出入りしていたので,そのときにどう思っていたかというのは,あまりちゃんと思い出せないけど,とにかくすごく頻繁にミーティングをするグループで,夜明けまでみんなで話している,といったことがしょっちゅうあったことは覚えています。「何をそんなに話しているのか。よくしゃべるなあ。」と思うほどでした。
 時代的なこともありますが,ビデオを舞台に取り入れるといった,当時としては新しいことをやったりしていましたね。
 あと,目標がすごく大きくて,なおかつ具体的だったんですよね。パフォーマンスをやる場合も,例えば,「どこどこでなんとかフェスティバルというイベントがあって,そこでこういうパフォーマンスをしたら,そこからこういうキュレーターにつながっていって。」というような具体的な戦略を立てて活動していましたね。「海外では,エキゾチシズムとオリエンタリズムとしての日本を背負っていくとこんな風にしか評価されないから,ここはこうしないといけない。」とかね。とにかく知的なグループでした。

interviewer現代アートがすごく盛り上がっていた時代なんだろうなって思います。

高嶺 その世代の人は楽しかったんだろうな,とよく言われるんですよ。でも,実際はみんな同じようなものじゃないですかね。僕らも,上の世代の先輩を見て,あの時代は楽しかっただろうなと,ずっと言っていましたから。基本的にはそういうものじゃないかな。

interviewerパフォーマンスの特徴として,絵画や彫刻などとは違い,形が残らないということがあると思いますが,それについて何か意識したことはありますか。

高嶺 それはちょっとありますね。なぜかというと,僕はアートマーケットというものに対する疑いがあるんです。オークションでやり取りされたり,値段をつけられたり,そういうことに対する不信感というか,そういうことに巻き込まれたくないという思いがあるんですよね。
 お客さんがみんな2,000円なり3,000円なり同じだけのお金を払って,作品を鑑賞してもらうということが,すごくフェアな気がして気持ちがいい。
 形のある物を作ること自体は好きなんですよ。物も作るし,きれいなガラス細工を見て,「こんなの作れたらいいなあ。」と思うこともあります。ただ,それは純粋に物を作りたいという思いであって,作品をマーケットの中で扱うということとは違うと思うんです。
 あと,僕の場合,自分が舞台作品を見たときに受けた衝撃,揺り動かされる感情の大きさというのが美術作品のそれより大きかった。なぜだか分からないけど,突然涙が出てきたりとか。美術作品ではそういう経験がなかった。だから僕はいつもそこに目標をおいて,作品を鑑賞していただいた方を感情的に大きく揺り動かしたいという思いを持っています。



パフォーマンス「ジャパン・シンドローム 〜step2.“球の内側”」
京都芸術センターにて発表(2012年)

interviewer演出家としてパフォーマンスを作るときは,どのような感覚で取り組んでいますか。

高嶺 僕は,パフォーマーの人となりや,体のくせ,そういったところを知らないと,その人に合ったシーンが浮かばないので,いつも作っていく過程の中で内容が決まっていく感じですね。内容を先に決めて,それにあった役者さんを選んでいく,というやり方が一般的だと思いますが,僕はそうではないです。でも,まだまだ「こんな感じでやってほしい。」ということを伝えるのが怖いというか,苦労しています。

interviewer昔からそういうスタイルなのですか。

高嶺 舞台は特にそうですね。意図的にそうしているというのか,自然とそうなってしまうというのか,難しいところですが。
 美術作品の場合は,事前に材料を発注したりするので,変更がきかないんですよね。舞台ももちろん材料を発注する必要があって,デッドラインはここまでというのがあるんですが,必ずしもそれにとらわれる必要はないというか,最後の最後まで変更はできると思っています。
 ただ,あるイベントで実際にぎりぎりになって変更しようとしたら,スタッフが,「もう時間がないー。」って泣き出したことがあって。やっぱりちょっと無理かなと思ったこともありました(笑)。

interviewer完成予想図を描かずに始めるということに不安はないのですか。

高嶺 いや,それはもう不安しかないですよ。でも僕は,追い込まれた方が良いものができるという性格なんで,なんとかなってきているのかなと思います。

インタビュアー:美術研究科修士課程 日本画専攻 2回生 杉田 泉,松平莉奈
(取材日:2012年10月21日)
(取材場所:京都芸術センター)

Profile:高嶺 格【たかみね・ただす】アーティスト

1968年鹿児島県生まれ。1991年京都市立芸術大学工芸科漆工専攻卒業。
大学在学時からダムタイプによるパフォーマンスに参加するなど,パフォーマンス,ビデオ,インスタレーションなど多様な表現を行っている。
アメリカ帝国主義,身体障害者の性,在日外国人などの社会問題を扱った作品などで知られ,日本のみならず海外でも高く評価されている。
2003年,ヴェニス・ビエンナーレに参加。2011年から2012年にかけて日本国内3つの公立美術館で個展「とおくてよくみえない」を開催した。
著書に『在日の恋人』(河出書房新社,2008年)がある。