松尾惠さん 4/4
4.京都のアート
アートフェア「超京都」2011年
超京都や2015年のパラソフィアなど,今後,京都でどのような活動を展開しようと考えておられますか。
松尾 京都を支えている文化の土壌に,美意識の根幹として,王朝貴族の文化というよりも,むしろ茶の湯というものがあると思います。そういう美意識のある土壌の中で,現代の美術の場を作りたいと始めたのが,歴史的建造物を会場とするアートフェア「超京都」ですね。
パラソフィアに関してはアドバイザリーボードの一員としていうと,パラソフィアは単なる祭りではない。ただし,京都という元々祝祭的なものを持っている空間をフルで活かすという意味で,メンバーの一人として盛り上げていきたいと思っています。
今後,京都のアートはどうなっていくとお考えでしょうか。
松尾 京都には高度なアートが残っていくと思います。東京は,いろいろなメディアの中枢で,マーケットの核として非常に大事な都市ですが,京都は最高水準の思想や技術のある生産地だから,最高のクオリティの作品と作家を生む場所であり,そこで磨かれた人の仕事には,世界が注目し耳を傾けると思います。
パラソフィアや同じ年にある琳派400年の祝祭も,京都のハイクオリティな美術工芸の印象を決定付けるでしょうし,そこでも京都芸大から輩出される方たちが中心になっていくと思います。
今振り返って,在学中のどのような点が生きていますか。
松尾 小さい学校で,専攻や学年を超えて,面白い人同士がすぐに出会えました。今熊野の校舎には,日常的なコミュニケーションの交点があり,知っている顔を見つけたらお話をする。話した事はなくても,毎日エプロンをかけて出てくる日本画の先輩や油画の誰それさんとか,お名前はそこで覚えていました。みんながお互いに顔や名前,やっている事を知っていたというのは大きかったです。
また,京都芸大の先生は,こうしろああしろとおっしゃらず,自分で発見し,思考し,掴む力が身につきました。それが良かったですね。
京都芸大を志す受験生に一言お願いします。
松尾 京都芸大に入る事,卒業する事はゴールではありません。ゴールは,一生かかってもわからないかもしれませんが,遠いところに設定しておいた方がいいと思います。
私は,芸術をパートナーにして,こんなに豊かで楽しい人生はないと思っています。その入口ですよと言ってあげたいです。
在学生に一言お願いします。
松尾 デジタル世代と,私の世代のようにデジタルとアナログを跨った世代というのは,美術史の捉え方が違うと思いますが,インターネットで検索して見つけてきた写真を元に描くんだったら,そこに出かけて行って描いた方が良いと思います。出かける事が不可能であれば,目の前の関心を作品にした方が良いと思います。物や出来事には匂いがあるし,雰囲気があります。その空気感をどれだけ掴むかが大切です。
たいへん具体的ですがヘッドフォンをして電車やバスに乗ってはいけません(笑)。アーティストは,ノイズをどれだけ持っているかが大事だからです。ノイズを受付けない人は,アーティストとしてあまり深みがないし,長続きしない気がします。ヘッドフォンを外すだけでノイズは増殖します。他の人が他の人と話している事に聴き耳を立てることによって,全然違う世界が取り込めます。
アートマネージメントを目指す学生にアドバイスをお願いします。
松尾 アートマネージメントはいろいろな方面で需要が高まっていて,それとともに専門性も高まってきているでしょう。職場も,財団,ギャラリー,美術館,美術館もキュレーターだけじゃなくて,アウトリーチ活動をしたり,教育プログラムを作ったりする人もいますよね。ただ,マネージメントにはお金を作るという話も入ってきますから,そういう面では,他の商業活動と変わらないんですよ。アートマネージメントだけ特別だと思うと痛い目に逢います。他のビジネスと同じ勉強はしないといけないですね。
また,宗教を学んでおいた方がいいと思いますね。宗教によって,アートに関する制度や価値観も違います。特に,海外の方と仕事をする時に,相手の宗教を理解しておかないと,人づきあいの面で失敗したり,仕事のやり方が理解できないときがあります。
インタビュー後記
インタビュアー:本田耕人(美術学部総合芸術学科4回生)
(取材日:2014年1月7日)※唐仁原 希(2011年油画修士修了生)個展/MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/wにて
大学入学から京都に住むことになった私は,漠然と京都で芸術を学ぶ意味について考えていました。それまで伝統の街といったイメージが強かった京都ですが,入学後,80年代に関西のアートシーンが大きく盛り上がっていたことを知りました。その時代を間近でご覧になられていた松尾さんのお話では,80年に今の校舎に移転したばかりの京都芸大の雰囲気を知ることができました。
また作品を作る側から,アーティストをサポートするギャラリーの道へと進んだ松尾さんの,アーティストの10年先を見つめる確かな視点に感銘を受けました。松尾さんの「アーティストは様々なノイズの中で,作品を作らないといけない」という言葉には,作品を作っていくことの難しさとアーティストとともに歩んでいくことの確かな覚悟を感じました。一方で,京都にあるゆるやかな雰囲気は,ノイズに流されることなく,その中から確かな声を聞き取ることのできるような環境でもあるのかなとも思いました。
Profile:松尾惠【まつお・めぐみ】MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w 代表/Director
1980年京都市立芸術大学美術学部工芸科染織専攻卒業。
1986年VOICE GALLERY(現 MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w)開設。京都芸術センターを運営する財団法人京都市芸術文化協会理事,財団法人京釡文化振興財団(大西清右衛門美術館)評議員。ギャラリー運営を通じてアーティストの紹介,育成のみならず,京都国際現代芸術祭プロフェッショナルアドバイザリーボード,超京都代表,府・市の各種委員を務めるなど,京都を拠点に現代美術や芸術の環境整備に幅広く関わっている。京都市立芸術大学をはじめ多数の芸術大学において非常勤講師として後進の育成にも力を注いでいる。