閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

服部麻衣さん 4/4

4. いつか仕事で再会したい


現在の職場「大阪くらしの今昔館」にて

interviewer学芸員の仕事の良さ,大変なところを教えてください。

服部 仕事の面白いところは,いろんな人や物と出会えることや,自分にとって次から次へといろんな発見があって,そのことについて勉強するので刺激をたくさんもらえることですね。作品を間近で見ることができるのも嬉しいことですし,展覧会など企画立案を通して,自分の意図したことを明確に形にできるわけですが,来館者の反応をダイレクトに感じることができ,企画内容に対する評価がわかりやすいですね。基本的にはいつも来館者の皆さんに喜んでもらえているので,すごくやり甲斐のある仕事だと思っています。

 その一方で,大変なこともいろいろあります。例えば展示で,世界に一つしかない物を扱うことがあるのですが,そういう時は特に慎重に対応しないといけないので,相当に気を使いますね。また,学芸員というと,何でも知っていると思われていて,来館者から難しい質問を受けたりするので,プレッシャーを感じることがありますね。それに,意外に思われるかも知れませんが,結構,体力を必要とする仕事なので,もう少し体を鍛えないといけないなと思っています(笑)。

interviewer学芸員の仕事で,京都芸大で学んだことは活かせていますか。

服部 今の仕事に就いて,意外と自分が器用だということに気づいたんです。

 京都芸大では,周りの学生は絵を描いたり,物を作ったりすることが得意なので,それが普通だと思っていたんですけど,社会に出てみると,ちょっと絵が描けると,器用な人だと頼ってもらえるということがわかりました。これは学生の皆さんにお伝えしたいんですけど,自分が当たり前に思っている,カッターで真っ直ぐ切れることや,ちょっとラフな絵が描けるというような京都芸大で身に付けたスキルは,社会ではとても重宝されて,周りからも褒めてもらえるんですよ。今ではそれが自信になっています。


小学生たちに昔のくらしを伝える

interviewer最近,気になっていることは何ですか。

服部 今度,昭和のレトロな家電に関する展示(2015年1月3日〜2月11日開催)をするので,家電のことばかり考えています。昔の家電には面白い物が多くて,いろんなことを持ち主に聞いているうちに詳しくなって・・・。今では,日本一,昭和レトロ家電に詳しい学芸員と言われています(笑)。

 今,私たちが使っている物も,30~40年後には,レトロな物として博物館に登場するのではないかなと思います。昔の物を見ると癒されるという意見をよくいただくんですよ。昔,自分たちが使っていた物,懐かしい物が歴史を感じさせて癒しを与えてくれる。そういうことが,今の博物館に求められるものの一つなのかなと思いますね。

 家ではいつも,家庭と仕事を両立させるにはどうしたらいいか考えていて,家事を自動化するために最新の家電を買いたいと思っているんですけど(笑)。

interviewer将来的にやりたいことはありますか。

服部 社会見学に来た小学生や,博物館実習で来た学生など,「今昔館」で出会ったいろんな若い人たちがいつか社会に出た時,一緒に仕事ができたらいいなと思っています。高校の教え子の中にも,デザイナーとして活躍している人などもいますので,機会があれば何か一緒にやりたいですね。そんな夢を叶えるためにも,長く働いていきたいなと思っています。

interviewer京都芸大を志している受験生に一言お願いします。

服部 歴史ある京都芸大の卒業生には,有名な先輩方が多くおられますが,その方々と同じ卒業生として自分も仲間に加えてもらえることは誇りに思えますし,そのことで助けられることもあります。社会に出てから出会った方が京都芸大の卒業生で,私が後輩だとわかると,いろいろと力になっていただけたり,ありがたいことも多くありますので,それだけでも京都芸大に行った価値は大きいと思っています。

 総合芸術学科に関しては,学生は少人数で先生との距離が近いのがいいですね。実技や部活で知り合った学科を越えたつながりがあって,みんな仲が良いので,そんなアットホームな雰囲気の中で勉強できることが京都芸大のメリットだと思います。是非,頑張ってください。

interviewer在学生にも一言お願いします。

服部 学生時代には悩みがあっていいと思います。進んでいく道を見失う時があるかもしれないけど,その時には,見失っていることを周りにアピールして,助けを求めてみてください。今,辛くて頑張ることができない人も,私の経験から,この先まだ挽回できるチャンスはいくらでもあるので心配せずに自分の信じた道を進んでください。

インタビュー後記

 私は,服部さんと同じ総合芸術学科に在籍していますが,他の学科に比べると,歴史も浅いためか,謎に包まれた学科というイメージを持たれています。しかし,今回お聞かせいただいたお話を通じて,社会の中で「美術」と「人」との間を繋ぐための方法論などを学ぶこの学科の重要性を再認識するとともに,幅広く美術に触れることでしか得られない知識や経験を積むことの大切さを感じました。

 私は制作に携わることが多いのですが,学生時代に学ばれた絵を描いたり,物を造る技術が実際の現場で活かされているということをお聞きでき,嬉しく思いました。お勤めの「大阪くらしの今昔館」では,ご自身の直接の担当外の仕事もこなされていらっしゃるとのことで御苦労も多いと思いましたが,京芸で学ばれたことを活かし,やりがいを持ちながら仕事ができることは素敵だなと感じました。

 まだ社会に出て働くことを十分に意識できていなかった私にとって,今回のインタビューは自分の卒業後のことに思いを馳せる良いきっかけとなりました。残り2年間の大学生活の中で,より多くのことを経験していきたいです。

インタビュアー:川久保美桜(総合芸術学専攻 2回生*)*取材当時の学年

(取材日:2014年12月10日・大阪くらしの今昔館にて)

Profile:服部麻衣【Mai HATTORI】学芸員

島根県生まれ。2004年京都市立芸術大学美術学部総合芸術学科総合芸術学専攻卒業。2006年同大学院美術研究科修士課程芸術学専攻(芸術学)修了。京都府内の美術高校での常勤講師としての勤務を経て,2008年から「大阪くらしの今昔館」で学芸員として勤務している。同館では,展覧会等の仕事を通して,たくさんの人や物との出会いを大切にしている。