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高谷史郎さん 4/4

4. 時間と空間


『ST/LL』(写真:井上嘉和)

interviewer作品を創る上で色々な人と関わられると思いますが,その際に大切にされていることはありますか。

高谷 誰かとコラボレーションする時はお互いに尊敬しあうことが大切です。その人から出てきたアイデアを一見して違うと感じても,まずは一度考えてみる。そして何がどう違うのかということをちゃんと話してみないことには,それが本当に違うかどうかもわかりません。それに相手の考えていることが理解できれば,改善ポイントについて話し合うこともできるかもしれません。しかし最初に「違う」と決めてかかってしまったら,そんなやり取りをすること自体も無駄になってくる気がします。嫌ということに理屈をつけて,どう嫌かと考えるのは時間の過ごし方として無意味なことで,それよりもポジティブな面を見つけて面白いと感じる部分を付加していける方が有意義な時間だと思いますし,共同作業を経て出来上がった作品は観る人にとっても,すごく重層的で面白いものだと思います。

interviewer作品を創るうえで技術スタッフには何を求めますか。

高谷 私は技術を担当してくれる方たちのことを,基本的には技術スタッフとは思っていません。プログラマーの人たちの仕事は,こちらから出したディレクションをどう形にするかが基本ですが,私が求めているのは,こちらの想像できない部分を気づかせてくれる人です。伝えたことをそのまま形にしてくれる人との仕事もよいのですが,私が一緒に作品を創りたいと思う人は,作品をより良くするためにアイデアを持っていて,それを惜しみなく出せる人です。手を動かすだけのスタッフではなく,「アーティスト」と仕事がしたいですね。そうでないと面白くないと思います。


『明るい部屋』(写真:福永一夫)

interviewer今はどんな創作活動に興味がありますか。また,今後取り組みたいことは何でしょう。

高谷 興味があることは色々あります。ダムタイプに入ったおかげで,自分の活動分野はある意味ボーダーレスで,インスタレーションをやりたいと思えばインスタレーションを作るし,写真をやりたいとなれば写真の作品も作るし,劇場空間を使ってあるコンセプトを展開したいと思えば,そのコンセプトに基づいたインスタレーションとパフォーマンスも作ります。

 もともと学生の頃から長い間,モノの「かたち」というものに興味があるのですが,ダムタイプを始めた理由というのも,舞台を実験空間と捉えて,照明をどう当てたらそのモノがどう見えるかということをお客さんと共有できるとか,そういうのが面白いなと思ったからで,ある意味ではそれも「かたち」なんですよね。『明るい部屋』という舞台作品では,両側を客席にして中央にステージを配置して,通常の舞台で用いられる「書き割り」のようなものは一切通用しない舞台を作りましたが,それも様々なモノの「かたち」へのこだわりと興味があってやったような気がします。

 そして,最近はその「かたち」と同時に,舞台にしてもインスタレーションにしても「時間」というものが重要だと考えています。時間軸上でどう見えるかが重要なんです。私は時間の構造を創るのは音楽だと思っているのですが,そのような意味でも音楽家とのコラボレーションはとても重要に感じています。

 これまで私は時間と空間を分けて考えていたんですが,ある展覧会のために,撮影した映像を1ピクセルラインずつパノラマに展開するヴィデオ・インスタレーションを作成したのですが,この手法によって,時間と空間が織り込まれたような一つのパノラマが創れることが分かりました。この体験を契機に更に時間について考えていくと,自分の感じていることが,時間と空間は交換可能と考えるアインシュタイン以降の量子力学的な時間や空間の概念に繋がる部分があることに気付きました。

 ニュートンが現れるまでは,世の中の人はニュートンの物理空間なんて想像すらできなかったわけですが,この何百年で私たちにはそれが浸透してしまっていて,アインシュタインの話を聞いても違和感を覚えるようになってしまっていますよね。それは絵でも一緒のことで,パースペクティブが無かった世界から,パースペクティブというものを導入した世界が始まって,そうしたら自分の目で見たものにより近い世界が現出したわけで,それは結局,描いている人はもちろん鑑賞者も概念が変わっていっているということですよね。今は自分がそういう考え方から感じとった感覚というものが,何か新しい表現に繋がらないかなと考えているところです。


『Toposcan / Ireland』(撮影:木奥惠三 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC])

interviewer京都芸大を目指す受験生,そして在学生へのメッセージをお願いします。

高谷 学生時代ってすごく時間があると思いますが,その時間をどう使うかが大切ですよね。必ずしも効率良く使うのがよいということではなくて,傍から見れば無駄な時間の使い方でもいいと思います。学生の時ってお金は無くて,あるのは時間だけ。その時は無駄に思えるかもしれないけれど,集中できるものを集中してやるべきだと思いますし,それが後々生きてくることもあります。膨大にある時間をうまく使って欲しいですね。学生時代は色んな事をやればいいと思うんです。失敗しても学生だし,恐れるものはありませんよ。

 芸術系大学はたくさんありますが,どうしてなのか分かりませんが,その中でもやっぱり京都芸大が好きなんです。自由で伸び伸びしていたのが良かったし,何か教えてもらえるというような受け身の大学じゃなかったから,自分がしっかりしてないといけないし,やりたいことを創っていかないといけない場所だと思います。職業教育の場ではなくて,やっぱりアーティストを育てる大学なんだって感じがします。だから面白いんでしょうね。

インタビュー後記

 私は3回生から大学外で舞台照明の活動をしていて,一番最初に照明を教わった方から,高谷さんのパフォーマンス公演に照明で関わっているという話を聞きました。私はそれ以来,高谷さんの作品に漠然と興味を持つようになり,日に日に強い憧れを抱くようになっていたのを覚えています。丁度その当時,ダムタイプについても調べていた時期でもあったので,このインタビューの機会に是非とも高谷さんにお会いしたいと思っていました。

 京都芸大で高谷さん自身がどのような学生生活を過ごしていたのか,貴重なお話をたくさんお聴きできて本当に嬉しかったです。

 当時の高谷さんはカメラや照明に興味を持っていたことや,大学内での様々な人との関わりを通して今に至る過程を聴くことで,少しだけ身近に感じる時間もありました。

 びわ湖ホールや京都芸術センターで高谷さんの作品をみたことはありましたが,このインタビューを通して実際にお話を聴いて,改めて作品を思い出して反芻すると,また新たな発見があったり,前の考えがより深まったり,作品の奥行きを感じることができました。

 このインタビューで得た経験は,制作を続ける限り自分の中に根強く残り,浸透していくことだと思います。

渡辺佳奈(日本画専攻4回生*)*取材当時の学年

(取材日:2016年10月19日・DUMB TYPE OFFICEにて)

Profile:高谷 史郎【Shiro TAKATANI】アーティスト

1963年生まれ。京都市立芸術大学美術学部環境デザイン専攻卒業。京都芸大在学中の1984年より,アーティストグループ「ダムタイプ」の活動に参加。様々なメディアを用いたパフォーマンスやインスタレーション作品の制作に携わり,世界各地の劇場や美術館,アートセンター等で公演/展示を行う。1998年から「ダムタイプ」の活動と並行して個人の制作活動を開始。舞台作品《明るい部屋》(2008年初演,世界演劇祭/ドイツ),《CHROMA》(2012年初演,滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール),《ST/LL》(2015年初演,ル・ヴォルカン国立舞台/フランス)を製作。ナポリ演劇フェスティバル(イタリア),東京・新国立劇場での公演や,山口情報芸術センター[YCAM],シャルジャ・ビエンナーレ(アラブ首長国連邦),カルティエ財団現代美術館(パリ)などで作品を展示。また,坂本龍一や野村萬斎らとのコラボレーションも多数。2013年,東京都写真美術館で個展。平成26年度 芸術選奨メディア芸術部門 文部科学大臣賞受賞。

2015年から2016年にかけて京都市立芸術大学芸術資源研究センターが取り組んだ古橋悌二氏によるメディアアート作品「LOVERS」の修復作業に参加した。