閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

下内香苗さん 2/4

2. 「つくる意味」を考えていた大学生活

interviewer学生時代に個展を開催していましたか。

下内 自分の作品に自信がなかったので,個展などを開いて発表はしていませんでした。お二人は大学に入ってみて,周りは才能の凄い人ばかりに思えてきませんでしたか?私は周囲の人に圧倒されるばかりでしたし,自信もなくて,ものづくりにどう向き合えばよいのかずっと悩んでいました。ものをつくっている間は無心になれましたが,いつも立ち止まっては,なぜ自分がものをつくっているのかを考えてばかり。大学時代は自分がものをつくることの意味を考えていた4年間でした。

 その後,社会人になってからは,個人的なものづくりをやめました。世の中には,自分なんかより凄い作家さんがたくさん存在して,既に素敵なものが沢山あるのに,わざわざ私が作品をつくらなくてもいいのではと思えてきたのです。ですから,大学を卒業してからしばらくの間,陶芸から離れました。

interviewer大学時代に印象に残っている授業等はありますか。

下内 座学では,解剖学ですね。実際の解剖に立ち会いもしました。すごく良い経験でしたが人体の構造が良く分かりました。衝撃的でしたね。デッサン力を上げるのが本来の授業の目的でしたが,人間を見る目が変わりました。

 他にも歴史系の授業を受講していましたが,社会人になってからもっと勉強しておけばよかったと思いました。基礎的な内容でしたが,その引出しがあれば,美術館で作品をもっと深く鑑賞することができたのではないかと思います。

 専攻の授業では,プロダクトデザイナーの黒川雅之さんが特別講師として担当された「鋳込み」の授業ですね。それまでは表現に重きを置いた授業が多かったんですが,実際に生活で使うものをつくるという経験を積めたことがよかったです。その授業はプロダクト・デザイン専攻との合同授業だったんですが,デザインの学生はやっぱり商品らしく仕上げてくるんですよね。厳しい授業できつかったですけど,今となっては良い思い出です。

 それから,これはイベントになりますが,芸祭も印象深いですね。陶磁器専攻でナンを焼いてカレーと一緒に売りましたし,自分個人でも友達と一緒にアクセサリーを販売したりしました。

interviewer当初から企業への就職を考えていたんですか。

下内 就職活動の時期を迎える直前まで企業への就職の道は考えていませんでした。ネットの就職サイトに登録だけしているような状態だったんですが,偶然に現在勤めている会社の企業理念を知る機会があり,それに強く共感しました。「ともにしあわせになるしあわせ」というのがフェリシモという会社の企業理念なんですが,ものづくりという行為は,どちらかというと,自分だけの幸せになりがちですけど,自分一人の幸せだけではなく,他者をも幸せにすることを大切にしようとしている。例えば,「その人の記憶に残るものをつくる」,「自分が作った器で誰かの食事がおいしくなる」といったように,自分達がつくりだしたもので,人を幸せにするという考え方に感銘を受けましたね。

 就職試験では,人を幸せにする「自分カタログ」を作成してくださいという課題が出ました。何かをつくることになればそこは芸大生ですから得意分野です。カタログに色々仕掛けなどを盛り込み,積極的にアピールしました。ものすごい倍率でしたが,その後の面接試験も乗り越え無事に採用されました。

インタビュアー:木田陽子,前 瑞紀(いずれも美術学部陶磁器専攻2回生*)*取材当時の学年
(取材日:2017年11月23日・本学大学会館にて)

Profile:下内 香苗【Kanae SHIMOUCHI】

1986年,徳島県生まれ。京都市立芸術大学美術学部工芸科陶磁器専攻卒業。2010年,株式会社フェリシモ入社。雑貨のWEBサイト『Kraso』『ecolor』等のサイトマネージャーを経験後,同ブランド生活雑貨の商品企画を担当。その後,新規事業部で食品関連事業の立ち上げに参加。現在は同じく新規事業部で商品調達業務とバイヤー業務を行う。