閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

下内香苗さん 3/4

3. ものを生み出す世界にいたい


入社7年目。食品事業イベント会場にて

interviewer社会に出てみての印象はどうですか。

下内 「社会は広い!」。びっくりするくらい色々な人がいます。年齢,性別,経験,価値観,好きなもの,全てがバラバラの人と一緒に働く。学生時代はそんなことありませんでしたよね。最初はそのことに戸惑いましたが,同期が楽しい人ばかりで,周りに恵まれました。社会人になっても,人を怖がらず,話しかけていったら大丈夫だと思いますよ。今の仕事は商品の企画業務を担当しています。一見華やかですけれど,値段交渉や生産量の調整等々,正直なところ地味な仕事が多いです。一つの色を出すのにどれくらい手間がかかったかなんていう苦労話もありますし,お客さんや取引先の生産者の方からお叱りをうけることもあり万事がハッピーなことばかりではありません。その一方でお客様から嬉しいお言葉をいただけることもあり,そんな時はやはり嬉しいものです。仕事は最後まで手を抜かずにやれば,周りが見ていてくれて助けてくれることがあります。学生の皆さんも,手を抜くことなく制作に励んでいただきたいですね。

 それから,今の仕事はものづくりにも関わる部分がありますから,その点で陶磁器専攻で学んでよかったと思います。ものをつくる時にメーカーさんがどの部分で大変かが分かるんです。作り手側に立った経験が活きています。

interviewer今はものづくりはされていないんですか。

下内 社会人になってからしばらくは陶芸をしていなかったんですが,入社後数年して,自分にとっての転機となる商品を手掛けることになりました。家の庭に夜になると星が沢山浮いていたら楽しいかなと思い,地面に刺すタイプの星形ライトを企画製作しました。それまでは商品を企画しても,なんとなく自己満足に終わっているように感じていて,この星形ライトもその域を出てないように思っていました。しかし,商品を買われたお客様の声の中には,夜遅くに帰宅しても家族の存在が感じられて安心感があるという嬉しい反応があり,この時に初めて商品を作った意味を感じられました。そして,この時に私はものを生み出していく側の世界にいようと思い直しました。

 卒業してから,3年程して陶芸を再開しました。周囲の人に大学で陶磁器を専攻していたことを話すと,『私もつくってみたい』と言う人がとても多かったので,だったらそんな場所を自宅につくろうと思ったんです。その結果,今はマンション住まいなんですが部屋の中に窯と轆轤があります(笑)。社会の中では,ものをつくれる人は稀有な存在だと思います。結婚式でも,引き出物とか式場に飾る物を何かつくって欲しいと言われます。人に楽しいと思ってもらえたり,一緒にプレゼントをつくったりできることが嬉しいですね。


自宅の陶芸教室の様子

 現在は自分で作るよりも,自宅を陶芸教室のようにして,友人や同僚と一緒につくることが多いのですが,会社員になっても,ものづくりを諦めずに仕事と両立していけますよ。陶芸は窯さえあればできるので,部屋に窯を置いたことによって,家に人が来るようになりました。陶芸のおかげで,友達がたくさん増えました。窯元に一緒に遊びに行ったりもしていますよ。

 自己表現も諦めなくていいと思いますね。私は生活にまつわるものをつくることによって,自分の心が豊かになると感じています。会社員になって『作品』ではなく『商品』をつくることになりましたが,改めて陶芸は食卓を豊かにし,生活も豊かにするものであることに気付きました。ものづくりのスキルがあるということは,大きな武器だと思います。作家として,暮らしの器をつくっている人もいます。自分がやりたいことを狭めなくていいと思います。「誰かを幸せにすること」。それが工芸の原点だと思います。アートも同じで,家に好きな絵があると幸せになれますよね。「これが家にあったらいいな」「誰かが元気になればいいな」そういう気持ちを大事にしていけばよいのではないでしょうか。

インタビュアー:木田陽子,前 瑞紀(いずれも美術学部陶磁器専攻2回生*)*取材当時の学年
(取材日:2017年11月23日・本学大学会館にて)

Profile:下内 香苗【Kanae SHIMOUCHI】

1986年,徳島県生まれ。京都市立芸術大学美術学部工芸科陶磁器専攻卒業。2010年,株式会社フェリシモ入社。雑貨のWEBサイト『Kraso』『ecolor』等のサイトマネージャーを経験後,同ブランド生活雑貨の商品企画を担当。その後,新規事業部で食品関連事業の立ち上げに参加。現在は同じく新規事業部で商品調達業務とバイヤー業務を行う。