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島田陽さん 3/4

3. 長く悩んでものをつくれるのは今だけ

interviewer学生時代に葛藤などはありましたか。

島田 葛藤というか,どう制作しようかと悩んでいました。社会に出ると,仕事には締切りがあるから,学生時代にとことん悩んで考える作業をしたことは良かったと思う。学生時代程,長く悩んでものをつくれる機会はそうそうないですよ。

特に,芸大祭のときは周囲から凄いものつくってよというプレッシャーで,胃が痛くなるほどでした。模擬店づくりでは,家で寝ていても,何か違うと思えば,夜に大学に行って,案をつくり直したこともありましたね。

interviewer卒業後すぐに建築家として独立されたのですか。

島田 京都は学生の街なので,多少変わったことをしていても寛容な街ですが,大学を卒業していきなり神戸の自宅で建築の仕事をしていたので,あの人は何をしているのって冷たい目を感じました(笑)。

西脇の集会所 ©市川かおり

当初,卒業後すぐに独立するつもりはなかったんですよ。設計事務所である程度建築を勉強してから独立しようと思っていたのですが,やはり京芸生のお母さんて少し変わっていて(笑),同級生のお母さんが,実績のない私にいきなり家を建てて欲しいって言ってきたんです。なんとか,その注文に応えたところ,その初めての家が狭小住宅特集の雑誌に掲載されて,その雑誌を見た人から建築依頼の話をいただいたんです。それが終わったら,今度こそ,どこか設計事務所で働こうと思っていたんですが,ランドスケープ(都市景観)を専門としている環境デザインの同級生に,知人からの公園の仕事を紹介した結果,その公園の集会所を設計することになりました。そしていつの間にか独立し,設計事務所で勉強する機会もなく,社会人としての振る舞い方も教わらないままに,現在に至っています。

interviewer住宅を設計する時に意識していること,気をつけていることはありますか。

島田 一概には言えないけど…当初気を付けていたことはキッチン等の水回りの配置ですね。それが上手くいっていれば,あとは何とかなりますよ。リビングや寝室は余ったスペースでいい。キッチンを中心とした水回りの配置は根本的な使い勝手に影響してくるから,それが上手くいっていないと住み心地の悪い家になってしまいますね。

interviewer建築家として,自分の世界を表現したいという思いはありますか。

島田 自分の世界を表現しようという力みはあまり良くないと思っています。周囲から自然と島田陽らしい作品だなと思われるのはいいですが,俺の建築作品に仕上げるみたいなスタンスは良くないと思っています。

六甲の住居 ©鈴木研一

interviewer現在の作風を確立されたのはいつ頃ですか。また,建築に関して,京都芸大時代と今を比べて変わらないことはありますか。

島田 振り返ってみれば同じ作風になっていることはあるけど,つくっている時は作風のことは考えていないです。芸大祭の時のメインオブジェは階段を昇って空間に入り,降りてくると空間が違って受け取れるものでした。今でもそうした空間の境界は意識しています。身体の移動とともに,意識が変容していくことに興味があって,住宅建築でもよく使う手法です。

建築に関して学生時代と変わらないことは,素材の扱い方の固定観念を外したり利用したり,そういうとこかな。

interviewer気分転換のためにしていることはありますか。

島田 小まめに色んなところに出掛けるようにしています。例えば,美術館に足を運んだりしていて,そういう作業が自分を作り上げていると思います。そして,建築家になるなら,美術館で鑑賞したときも,何が良くて何がダメなのかを自分の言葉にすることが大事だと思います。そうしないと自分のものにはならないと思います。

インタビュアー:遠藤桃花,中井由梨(いずれも美術学部デザイン科環境デザイン専攻3回生*)*取材当時の学年
(取材日:2018年12月19日・島田陽建築設計事務所(神戸市)にて)

Profile:島田 陽【SHIMADA Yo】

1972年神戸市生まれ。1995年京都市立芸術大学美術学部デザイン科環境デザイン専攻卒業。1997年同大学大学院修了。1997年タトアーキテクツ/島田陽建築設計事務所設立。

「六甲の住居」で第29回吉岡賞,「石切の住居」で日本建築設計学会賞大賞,「ハミルトンの住居」でNational Commendation, AIA National Architecture Awards,「宮本町の住居」でDezeen Awards2018 House of the Year受賞。

著書に『7iP #04 YO SHIMADA』『現代建築家コンセプトシリーズ22/日常の設計の日常』等。京都造形芸術大学客員教授。