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中尾香那さん 4/4

4. インプットする時間を大切に

interviewer社会人になって学生時代との違いはありましたか?

中尾 広告会社の仕事は,意外と大学時代の制作とあまり変わらないところがあって,クライアントから次々依頼があって,それに対してどんどんアイデアを出していく感じです。学生時代は,大学の友達など自分の周りの狭い範囲の人しか知らなかったので,東京にはもっとすごい発想でアイデアを生み出せるとんでもない人がいるんではないか,と勝手な幻想を持っていたのですが,社会人になってたくさんの方と交流してみると,意外とそんなこともなくて,みんな同じように必死に自分と向き合いアイデアを生み出していることがわかりました。私自身,社会人になったらもっとすごい発想ができていて大きく変わるんだろうと思っていたけど,今でも必死になってアイデアを出していますし,学生時代にやっていたことの延長線上で仕事をしているなと感じます。もちろん今はビジネスの世界にいるので,クライアントの依頼にどのように答えるかというのは学生時代とは違うけど,やっている中身は変わらないかな。ダメ出しを受けてやり直すこともよくあるけど,学生時代から慣れっこですしね。仕事だからしょうがなくやっているという感覚は全くなく,今も自分自身楽しみながら仕事をさせてもらっていると思います。

interviewer気分転換にしていることはありますか?

中尾 大学3回生の時に始めたフラメンコですね。10年以上続けていて,今でも必ず週に1回は教室に通うようにしていて,ソロで発表会にも出ています。仕事は忙しいですし,やればやるだけどこまでもできる仕事なので,区切りをつけるのが難しい部分はあるんですが,フラメンコ教室には必ず行くと決めています。仕事の場合,自分の手から離れて世に出てからどう評価されるかが本番みたいなところがあるけれど,フラメンコは自分が体を動かして,その瞬間を共有できるところが好きですね。仕事とは違う感覚でエネルギーを発散しているのですごくリフレッシュになっています。体を動かすと血流が良くなるので,頭も回転し新しいアイデアを生み出せているのかなと思っています。

また,一人旅にも出かけます。スマホの電源を切って,美術館やお寺めぐりをすることで,きちんと自分の内側と対話することができ,そういった時に浮かぶ思いは,次の仕事にも反映していくことができます。

interviewer今後やってみたい仕事は?

中尾 これまでは,広告の表現を作るのがメインのクリエーティブの部署にいたのですが,昨年,京都ビジネスアクセラレーションセンターという局に異動しました。それまでの部署では,すでにある商品をどのように広告するかということを担当していたのですが,今の部署では,新しいプロジェクトを立ち上げたり,商品開発から携わったりと,自分から積極的にアイデアを出して自由に企画提案できるようになりました。なのでもともと好きだった和の文化の発信に挑戦したいです。日本の伝統工芸品を新たな切り口で商品開発し,外国に発信していくようなことができたらいいなと考えています。

interviewer京都芸大を目指す受験生に向けて,メッセージをお願いします。

中尾 受験時代は,今までは楽しいだけで描いていた絵を,はじめてはっきり人と比べられる場所です。しかも,京都芸大に合格するためには勉強も実技もとても重要になってきますし,精神的にもかなりしんどい時期ですよね。ですが,そのときに自分自身で気づき,試行錯誤しながら習得した技術は,受験だけはなく,実はその後の制作にもすごく大きな影響を与えていると思います。周りの友人を見ても受験時代に身につけたその人のカラーはずっとその人の核にあるような気がします。今はとても大変だと思いますが,自分だけの武器を見つけていくような気持ちでどんどん強くなっていってほしいなと思います。応援しています。

interviewer在学生にも一言お願いします。

中尾 京都芸大は他大学と比べても特殊な校風だなと思います。スマートな完成度よりも,ちゃんと自分と向き合って,その人ならではの表現を見つけることをすごく大切にしている学校ですし,少人数性のおかげか,学生同士が変なライバル意識を持つようなこともなく,それぞれがまっすぐに自分の道を追求している感じがします。それはとても貴重で素晴らしい環境だと思うのですが,一方で今の私の視点で学生達を見ると,守られた世界の中で満足してしまっている子も結構多いんではないかな,という気もします。自分の興味の向くことがあれば,もっと外部でのイベントや大学外の人にも繋がっていけるようになると,自分自身の気づきになったり,未来に向けたチャンスになったりと,いろんな可能性が広がると思いますよ。

インタビュー後記

宇野冴香(美術学部ビジュアル・デザイン専攻4回生*)*取材当時の学年

今回,電通に勤務されている中尾さんにインタビューをさせていただいて率直に思ったことは「この方のお話を2年前に聞いておきたかった!」ということでした。大学で制作をしていると段々と視野が狭くなっていきがちなのですが,中尾さんは単位互換制度や専攻以外の授業にも積極に参加していらっしゃるなど,数年前の自分に足りなかったものがたくさん見えてきました。

また,ビジュアル・デザイン専攻で学んだことが仕事で生かせているというお話も印象的で,様々な課題に向き合って制作に励むことで得られる知識や技術がとても貴重なものなのだと改めて実感しました。ありがとうございました。

(取材日:2019年11月18日・株式会社電通関西支社にて)

Profile:中尾 香那【NAKAO Kana】(株)電通関西支社アートディレクター

1986年名古屋市生まれ。2009年京都市立芸術大学美術学部ビジュアル・デザイン専攻卒業。同年株式会社電通入社。グラフィックを中心に,パッケージ,キャラクターデザイン,CMプランニングまで,幅広い広告の企画制作に携わる。現在,京都ビジネスアクセラレーションセンター文化事業推進部アートディレクター。