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中尾香那さん 2/4

2. けちょんけちょんの批評が今に生きている

interviewer印象に残っている授業や課題はありますか?

中尾 ビジュアル・デザイン専攻に分かれて間もない,3回生前期の頃の,自己紹介のポスターを作るという課題が今でも忘れられないです。ポスターを制作する前の自己分析で,ロジックの部分や感覚的な部分,日本文化や海外の文化など正反対の要素のバランスをとって制作するのが得意だと思い,天秤と自分のシルエットを重ねて「バランス」って書いたんですね。「私はバランス感覚が持ち味です!」とプレゼンしたところ,担当教員だった向井吾一教授にボロボロに酷評されました。「19歳か20歳くらいで,自分のバランス感覚を自慢するのがこざかしい。コンセプトを押しだしている割に,細部の詰めが甘い。」とけちょんけちょんでした。当時は本当にショックだったので,鮮明に覚えています。

ただ,今思うと,褒められるのではなく,酷評されたことがかえって良かったと思っています。昔から,いろんなテイストのものを器用に形にできるタイプではあったのですが,向井教授には「色んな事ができるというのを売りにするのはいいけ ど,それであなたは何がしたいの?」と学生時代を通じて言われ続けました。その教訓から,手際よくやって80点で満足するのではなく,常に120点を目指して突き詰めて課題に取り組むようになりました。今でもその姿勢が仕事に活かせていると思います。

最近は先生が優しくなったと聞いていますが,当時は滝口洋子教授も含めて,ビジュアル・デザインの先生方には結構辛口のコメントばかりいただきました。そこまで言わなくても良かったんじゃないか,とは今も少し思っていますが(笑)。

interviewer120点を目指すために,心がけていたことはありますか?

中尾 当時のノートを見返すと,そこには「自分の考えにプライドを持ちすぎずに,人の意見にはきちんと耳を傾けるようにする。」とか,「ここでいいやと思って満足しない。」,「最初からゴールを決めて制作するのではなく,常に考えながら手を動かすこと。」とか書いてありましたね。当時とても課題が多かったので,毎日ずっと手を動かして作業をしていると,今,自分が何をしているのかわからなくなってしまう時もありました。ただ,先生はわざとそんな状況に追い込んでいるのかなと思うところもありました。スポーツみたいな感覚というか,まず手を動かして,無心になって課題に取り組むことで,考えに考えて出した答えより自分の持ち味が出たのかなって,今となっては思いますね。

「万葉カフェ」にて,中西進氏(元学長)による万葉集の解説の様子。

interviewer他に学生時代に思い出に残っている活動はありますか?

中尾 授業の枠を超えた活動として,造形計画が専門の井上明彦教授が中心となり取り組んでいた「大枝アートプロジェクト」に参加していました。

「大枝アートプロジェクト」では,京都芸大のすぐ横に京都第二外環状線の建設計画が進められることとなり,失われてゆく大枝地域の景色に対して,芸術に携わる我々は何ができるのかということに取り組んでいました。まず,大学の南側にある「大枝土蔵」をアートスペースとして改装し,そこを活動拠点に展覧会や演奏会などを開催していました。

その企画の一つとして,大枝地域は平安京以前の原風景が残っていることもあり,地元の人を招いた「万葉カフェ」を1日限定でオープンすることになりました。「万葉カフェ」では,平安時代の風景を再現し,万葉集の研究者で当時京都芸大の学長であったの中西進氏に万葉集の解説をしていただきました。

万葉集について直接色々教えてもらえたのは,令和の時代となった今では私の自慢ですね。小規模な大学だからこそ,学長とも距離が近く,交流できるのは京都芸大の強みですよね。

インタビュアー:宇野冴香(美術学部ビジュアル・デザイン専攻4回生*)*取材当時の学年
(取材日:2019年11月18日・株式会社電通関西支社にて)

Profile:中尾 香那【NAKAO Kana】(株)電通関西支社アートディレクター

1986年名古屋市生まれ。2009年京都市立芸術大学美術学部ビジュアル・デザイン専攻卒業。同年株式会社電通入社。グラフィックを中心に,パッケージ,キャラクターデザイン,CMプランニングまで,幅広い広告の企画制作に携わる。現在,京都ビジネスアクセラレーションセンター文化事業推進部アートディレクター。