閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

林田明子さん 3/4

3.ここまでやって来られたのは

ここまでやって来られたのは

interviewer_musicここまで音楽を続けてこられた理由は何だと思われますか

林田 こんな風に歌えるようになったのは、いい先生に出会えたことと、今の自分とちょっとベターな自分の状況を判断できて、薄紙を重ねるような作業ですが、的外れでない努力を重ねることができた結果だと思います。

また、私がありがたいと思うのは、両親の理解があったことですね。「やるならきっちりやりなさい。アルバイトのせいで勉強ができないとかそういうことにはなるな。」と言われていたので、精一杯勉強しないといけないと思っていました。そういう環境を与えられたおかげで、これだけ長い時間声楽に打ち込むことができたのですごく感謝しています。ひとつのことを長く続けたいという気持ちがいくらあっても、環境的にそれが難しくなることもあるので。

interviewer_music自分と周りを比べて落ち込んだり、自分を見失ってしまったりすることはありませんでしたか

林田 高校に入った頃、ありえないほどできなかったので、「ほかの人は一応スタートラインにいるんだけど、あなたは全然違うところにいるから、ほかの人は見なくていい。」と最初に先生に言われたんです。そんな状況だったから、比べている余裕がないというか、いつもマイペースで自分との戦いという感じでした。そのせいか、京芸に入って、そこまでひどくない状態になってからも、できない自分とひたすら格闘することはあっても、人と比較して落ち込むことはなかったですね。


interviewer_music自分をしっかり見つめて、しっかり努力をするということですね。

林田 「良いものは良い」と判断できる耳と感性をもつことが大切。良いライバルがいるということはとても良いことなんです。1000人いれば1000通りの声があって、1000通りの良さがあります。その良さが見極められるというのが大事なことですね。「悔しいけどこの人のここは今の私では勝てない。」というのを見ないようにして、「なにがなんでも私が1番よ。」とか、そういうごまかしは成長の妨げです。「良いものは良い」と素直に認めることができてこそ自分を改善できる可能性があるんです。コンクールで、「なんであの人が通って私が落ちるの。」というような悔しい思いをしたことはあるんですが、今思ったらそれも正しかったというか、そういう判断もあっても仕方がないなとわかってきますし、最終的に自分が良い歌を歌えるようになればいいことであって、ほかの人は関係ないというか。そういう意味では若い時から、視野を広くできるといいですね。

interviewer_music視野を広く持って勉強することが大切ということですね。

林田 機会があれば外国に行きなさいというのも、自分に関係ない世界として「見る」のではなく、自分に関わってくる形で「触れる」ことが大切だからです。日本にいた時は、自分の価値観しか知らなかったけれど、全く異なる価値観を体験すると、逆に日本のことも見えてきます。こういう経験は貴重だと思います。学生の間は学生という身分が保障されていて、自由がありますから、経験しておけば新しい考え方も生まれます。人から聞いている話というのはあくまで聞いているだけなので、自分の身にはつきませんよね。

interviewer_music音楽の道に進むにあたり、悩みや葛藤はありましたか。

林田 本番で崩れて思うように歌えなくなって、もうやめようかなと思ったことや、どうしても越えられない壁があってもうダメかなって思う時期が長く続いたことはありました。でも、「歌をやめる。」と宣言しても、困る人は誰もいないと思うと、やめることがばかばかしくなってもう少しやってみるかと思ったり、越えられないと思っていた壁がはっと気が付いたらひとつ越えていたりしました。
学生の時の成績とか出来というのは、長い目でみるとどうなるかわからないものですから。

インタビュアー:音楽学部声楽専攻4回生 井本千尋
(取材日:2012年2月13日)

Profile:林田明子【はやしだ・あきこ】声楽家

京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了。ウィーン国立音楽大学リート・オラトリオ科、並びにオペラ科卒業。
日本、欧州各地でのリサイタルを活動の中心に置く傍ら、音楽祭などでのオペラ公演、国内外のオーケストラなどにも多く出演している。その発音の明瞭さ、歌詞の内容に沿ったきめ細やかで多彩な表現力には定評がある。