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林田明子さん 4/4

4. 最後に

最後に

interviewer_music練習はどのようにされていましたか

林田 声を出す練習はよくしましたね。でも、本番で緊張して全然思うように歌えなくて、それでまた練習する、けどうまくかみ合わない、といったことがずっと続いていましたね。それで歌い過ぎてのどを壊したりしました。仕事としてリサイタルで何回も歌うようになってから、声を出すばっかりの練習というのは、のどに負担がかかるのでやめました。仕事と本番とが増えてくると暗譜する曲の数も増えるしペースも早いので、やみくもに声を出していると大変なことになるんですよ。例えば、音楽の作りをある程度頭に入れてから歌うようにして、暗譜目的では歌わない。歌詞をただ覚えるんじゃなくて、あたかも自分の考えをその時初めて思いついて語るかのように、情景とか感情とかが思い浮かんでから歌詞が出てくるように暗唱します。ブレスをして次の第1音を出す時に、もう自分の言いたいこととか感情が頭の中にあるんです。それをつかめるようになるには、歌詞の裏に何があるのかというのを理解して自分のものにするということと、正しいタイミングでその思いが浮かぶ必要がある。技術的に難しいところは声を出して練習する必要があるけれど、最小限の声で効率よく練習するように気を付けていますね。いまだに本番が近くなるとついつい歌い過ぎる傾向はあるんですけど、本番前の調整に何度も失敗した経験を通して学んでいくしかないですね。ただ、技術が未熟なときというのは声を出して技術を磨かなくちゃいけないというところもあるので、バランスですね。

interviewer_music違う世界を見たことで感じる京芸のすごいところはありますか

林田 少人数制ですね。密度が濃いですし、先生の目がすべてに行き届く良いところだと思います。オペラとか本当に手作りで、ありとあらゆることを自分たちでやれるというのはすごくいいんじゃないかなと思います。そういうことを全然考えもせず経験もせず専門の人にやってもらうという学校もあると思うので、そういうことを勉強できたのは、私は良かったなと思っています。ほかではできない経験ですね。

京芸生と未来の京芸生へのメッセージ

 私が先生に最初に言われたように、コミュニケーションをとる手段として外国語を1つ修得できれば、その言葉を話す国に行けて、それだけ世界が広がります。完璧ではなくてもコミュニケーション能力として身に着けることができれば、どんな世界に行っても損はないと思います。あとは、音楽とか芸術というのは不況の影響を最初に受けますし、現実問題として食べていけるか、というのは悩むと思うんですけど、特に歌に関しては22歳でできあがってバンバン稼げてというのはあまりないので、そこでぱっと切ってしまうかどうかという判断は難しいところです。自己表現の一つの手段として、もしそれが自分にとってベストであるならば、仕事をしながらでも大事に続けてほしいと思います。もちろんそれが仕事と重なれば一番いいんですけど。そして本物を修得していれば、なんとか生きていけるのではないかと思います。

インタビュー後記

インタビュアー:音楽学部声楽専攻4回生 井本千尋
(取材日:2012年2月13日)

 声楽家として第一線で活躍されている林田さんのお話を伺えたことは、同じ声楽を学ぶ私にとって非常に貴重で有難い体験でした。
 お話の中で特に心に残ったのは、「今の自分とちょっとベターな自分の状況を判断し、少しでもいい方向に。」ということを考えて、「薄紙を重ねるような」的確な努力を重ねてこられたというエピソードです。
 今の自分を冷静に見て、さらにより良い自分を冷静に判断するということは、簡単なようでなかなかできないことではないでしょうか。
 私自身、この京都芸大に入学し、大好きな歌を勉強できる喜びを感じる一方で、学年が上がるにつれて、同級生と自分を比べて落ち込んだり、自分を見失ってやみくもに練習してしまったりすることがあり、冷静に判断することの難しさを身にしみて感じています。
林田さんから学ばせて頂いた自分の歌と向き合い続ける重要性をしっかり胸に刻んで、これから一層自分と向き合い、より良い歌い手を目指して精進していこうと思います。

Profile:林田明子【はやしだ・あきこ】声楽家

京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了。ウィーン国立音楽大学リート・オラトリオ科、並びにオペラ科卒業。
日本、欧州各地でのリサイタルを活動の中心に置く傍ら、音楽祭などでのオペラ公演、国内外のオーケストラなどにも多く出演している。その発音の明瞭さ、歌詞の内容に沿ったきめ細やかで多彩な表現力には定評がある。