高橋範行さん
1. バンドに熱中
小さい頃はどんな子供でしたか。
高橋 普通の子供だったと思います。普通の公立の小中高に通って,遊んで,趣味に没頭しすぎて親に怒られて,そういう普通の生活を送っていましたね。
その趣味が音楽だったんですか。
高橋 小さい頃は外で遊ぶのが好きで,小学校の高学年まではサッカー部でした。音楽は,幼稚園の頃に,エレクトーンを無理やり親に習わされたことがあったんですが,嫌で嫌で仕方なくて,いかにして休むかを考えていました。習い事って,みんなで遊んでいるときに,一人だけ時間になったら帰らなきゃいけないでしょう。それが嫌だったんですね。なので,自分から音楽に興味を持ったのは小学校の高学年の頃からです。
興味を持ったきっかけがありますか。
高橋 ポピュラー音楽のかっこいいバンドに憧れたというよくあるパターンです。当時はバンドブームで,テレビの歌番組を見て,単純にかっこいいなと思い,見よう見まねでシンセサイザーを弾きだしました。友達とバンドを組んで,ライブハウスで演奏したりコンテストに出たりして,かなり熱中していましたね。中高時代は,バンドに全精力を傾けていました。
それだけバンドに熱中していたのに,クラシックの曲を弾くようになったんですよね。
高橋 高校の音楽の授業で,同級生がピアノでショパンの曲を弾いたんですよ。音はきれいだし,指はよく回るし,起伏があって格好良かったんです。それまで,ロックやポピュラー音楽一辺倒で,ほとんどクラシック音楽に接してこなかったので,単純に「うわ!すごい!」と驚きました。
それで,クラシック曲を弾いてみたくなって,早速楽譜を買いに行ったんです。選んだのはショパンの練習曲。どんなレベルの楽譜か分からずに買ってしまい,独学で数年間鍵盤を触ったぐらいでは全然弾けなくて。弾けなかったから,ますます「すごい!」って思ったんですね。こういう曲を弾くためには,独学では無理なんだろうなと強く感じました。趣味でやっていたバンドから,クラシック音楽により興味がわいた出来事でした。
その気持ちが,進路につながったんですか。
高橋 高校2年生頃,クラシックの世界をのぞいて,何とか音楽に関わる進路を選びたいと考えるようになりました。どんな選択肢があるのかを調べて,学校の音楽の先生になろうかと思ったんですよ。それで,音楽の先生に相談したところ,「頑張って目指してみよう」と応援してくださって,先生が自宅でピアノを教えてくれることになりました。高校3年生の春頃のことで,初めてピアノを習った時です。
受験は,地元の新潟大学教育学部音楽(※)に絞りました。受験内容には,ピアノ実技以外にソルフェージュや聴音もありました。ソルフェージュなんてその時初めて聞いた言葉でしたけど,コンコーネを歌ったり聴音の練習をしたり,必死に頑張りました。
※ 当時の名称,現在は新潟大学教育学部音楽教育専修
かなり短い時間で新しいことを学びながら,センター試験の対策もされたんですよね。
高橋 授業にほとんど行かずに部室に行っていたので,勉強の成績はダメでした。でもセンター試験は,3教科だったので,集中して勉強して,結果的に,現役で新潟大学に滑り込めました。実技試験は,多分聴音で得点をかせげたんじゃないかと思います。バンドの人は,いわゆる「耳コピ」と言われる,演奏を耳で聞いてコピーする方法で演奏するんですよ。バンドをやっておいて良かったと思いました(笑)。
それに,変に気負うことがなかったのが良かったのかもしれません。人前でピアノを弾くことの「恐ろしさ」をわかってなかったんですよ。自分を上手くコントロールして,楽曲の持つ世界を作り上げることが凄いことだと,今ならわかるんですけどね。
熱中するものが見つかると,力が出るタイプなんですね。
高橋 どうやら,そういうタイプのようです。興味を持たないものは全くダメで,興味を持つと,ガーッと突き進んでしまうタイプ。やっぱり変わっているんですかね。
冒頭で,「普通の子だったと思っている」とおっしゃっていました(笑)。
高橋 自分の過去を思い出すと,やっぱり「変わった子だったかも」という思いもあるので(笑)。ちょっと恥ずかしいんです・・・。
インタビュアー:音楽学部 作曲専攻4回生 春野海
(取材日:2013年11月14日)
Profile:高橋範行【たかはし・のりゆき】大学教員
京都市立芸術大学音楽研究科博士(後期)課程修了。現在、愛知県立大学教育福祉学部准教授。研究・専門分野は音楽教育学,音楽心理学。