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高橋範行さん 3/4

3. 音楽心理学を深める

interviewer_musicいつごろから博士(後期)課程(以下,ドクター)への進学を考えられたのでしょうか。

高橋 京都芸大のマスターに進んだ時は,単純に音大に行ってみたいのと,音楽心理学を勉強したい程度だったので,ドクターのことは全然頭にありませんでした。でも,私がマスターを修了する2003年に,タイミング良くドクターが設置されたんですよ。これは何かのお告げかもと思いました。

interviewer_musicでは,ドクターへの進学も迷った末の選択だったのでしょうか。

高橋 確かに,将来像をきっちり決めて進んできた訳ではないので,ドクターへ行くのは本当に迷いました。すでに大学院で4年間も学んでいるし,奨学金もこの先さらに借り続けるとなれば,かなりの額になってしまう現実も恐ろしかった。決めたのは,たぶん,タイミングの良さだったんでしょうね。将来の不安を抑え込めるわけじゃないし,「えい!」って前に進んだ気がします。

 不安と言えば,ドクター修了後のこともですね。大学の教員の採用は狭き門で,そもそも募集自体が減っているし,さらに音楽系は絶対数が少ない上に,自分の領域とか業績が当てはまる公募もなかなか出てこない。ドクターの最後の頃から意識して応募し始めましたが,落ちてばっかりでした。時々,「あの時,違う道へ行っていたら,どうなっていたかな。」とか思いましたよ。

interviewer_music学位論文は津崎教授の下で書かれていますよね。担当教員が途中で変わられたのでしょうか。

高橋 そうです。2年目になる時に大串先生が退任されて,津崎実先生が後任で来られたんです。どうやら私は,途中で指導教員が変わる運命にあるらしく,結構大変でした。

interviewer_music研究にどんな影響がありましたか。

高橋 内容が大きく変わったわけではないんですが,アプローチの仕方ですね。津崎先生は,バックグラウンドが心理学で聴覚が専門。大串先生は工学出身なので,考え方がやっぱり違うんですよね。違う考えに触れることが非常に新鮮でした。

 津崎先生の下で,初めて,実験結果のデータ処理をプログラムを組んでやったんです。心理系や理工系の研究では当たり前でしょうけど,音楽出身の自分にとって,そういう世界があることも知らなかった。元々,数字自体は苦手で,プログラムを学んだからといってその手法を身につけるレベルまではたどり着けたとは言えないんですが,その世界の様子を少しでも知ることができて,すごく良かったと思っています。

 指導教員が変わって,研究の方向を修正したり広げたりっていう大変さもありましたが,色んな考え方に触れることができて良かったです。

interviewer_music情報処理は苦手なんですか。

高橋 数字自体が,今でも大の苦手です。この先も自分なりに勉強して,ひたすらあがいていくしかないでしょうね。

 先生方には,基本的なことを随分丁寧に教えてもらいました。でも,学生の時って,先生がすごく丁寧に説明してくれているのに,それでもなかなか分からなくて,これ以上聞いたら申し訳ないと思って「分かりました」と言ってしまうことってありますよね。

interviewer_music確かに,僕にもあります。

高橋 私もそういうことがあって,正直なところ,分からないなりに研究していたところもあります。前に進んでいることが感じられないときは辛いけど,例えば,作曲専攻の人が,コンセプトを考え抜いて,一つの音の配置を決めるのにすごく悩んでいたりする。まわりのそういう姿を見ていると,見習わなければいけないなと,自分の力にしていましたね。

 でも,ずっと勉強ばっかりしていた訳じゃないです。学食でおしゃべりしたり,演奏会や観光に行って息抜きをしていました。

interviewer_musicドクターの指導は基本的にマンツーマンですか。

高橋 基本的にはマンツーマンですけど,音楽学の教員全員と学生全員で,個々の学生の研究テーマについて議論する授業がありました。他の領域の先生の意見を聞ける機会は貴重で,それまでは考えてもみなかった視点を知ることができるんですよね。そういう授業は初めてで,すごく面白かったし刺激的でした。

interviewer_musicドクターを修了後は,どのように研究を続けておられたんでしょうか。

高橋 2年間,新潟大学の教育学部の非常勤職員として,研究や授業のお手伝いをしていました。その間も,共同研究をしながら教員公募にも出し続けて,ようやく声がかかったのが愛知県立大学の教育福祉学部です。

 実は,京都芸大を卒業する少し前から,心理学系よりも昔の教育系の研究をやりたい気持ちに変化してきたんです。音楽心理学は,ベースが心理学になりますが,音楽を演奏している方が知りたいことと心理学で示せることは,必ずしもイコールではないんですよね。もちろん双方の学問的興味が一致する場合もありますし,心理学として知りたいことも,研究自体も面白いんです。だけど,音楽をより豊かに楽しむことに生かせるような研究をやりたいと思うようになり,音楽教育の教員を目指すことを決心したんです。

インタビュアー:音楽学部 作曲専攻4回生 春野海

(取材日:2013年11月14日)

Profile:高橋範行【たかはし・のりゆき】大学教員

京都市立芸術大学音楽研究科博士(後期)課程修了。現在、愛知県立大学教育福祉学部准教授。研究・専門分野は音楽教育学,音楽心理学。