閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

高橋範行さん 2/4

2.新潟から新天地・京都へ

interviewer_music新潟大学に入られてからは,どんな学生生活でしたか。

高橋 入学してからは,とにかくピアノを弾きましたね。最初のレッスンで,先生に呆れられたことをすごく覚えています。まわりの学生は,ショパンとかリストを当たり前のように弾いていて,その中で一人だけツェルニー30番で,右手と左手がずれているとか言われている状態だったんです。これはまずいなと思って,一日8時間は弾いていたと思います。

 授業にも行かずにピアノの練習をしていたし,バンドも続けていたので,案の定,単位が危なくなってしまって(笑)。あやうく4年間で卒業できなくなりそうになりました。テスト期間中はずっと大学に泊まり込んで,勉強してレポートを書いて試験を受けて,という生活をしていました。

interviewer_musicバランス良くやるのが苦手だったのでしょうか。

高橋 今,目の前にある自分がやりたいことばかりしてしまう。でも,ここぞというときは頑張っていました。学部の後,大学院に進むんですけど,そのときも猛勉強しました。卒業後のことを考えた時に,入学時点で他の人より音楽の学びや経験が少ないし,もっと勉強してから教壇に立ちたいという意欲が出てきたんです。

interviewer_music学部時代には音楽心理学と接点はありましたか。

高橋 ピアノの実技指導をしてくださっていた水戸博道(みと・ひろみち)先生が,音楽心理学の研究もされていたんです。先生の実験の被験者をやる機会が何度かあって,面白いなと思いましたね。

 実験で覚えているのが,先生の研究に,おじさんがシンコペーションのリズムの部分がうまく歌えないのはなぜなのかという,リズム構造と歌詞のあて方を関連させて論じる研究があったんです。私は,「若い人は歌える」方の被験者の一人として,ポップスとか演歌を歌いました。

interviewer_music新潟大学の修士課程のときは,どんな勉強をされていたんですか。

高橋 引き続きピアノを学びながら,空いている時間に心理学がご専門の先生の実験の手伝いをしていました。他にも,文献購読の授業で,音声研究で有名なアメリカのハスキンス研究所のブルーノ・レップの論文を読んで,音楽を客観的に見つめる世界を知ったことが印象深いです。ピアノの演奏は,どうしても自分の想いが強すぎて主観的な見方になっていく人が多いことに,少し疑問を感じていたので,目の覚める思いで読みましたね。

interviewer_music音楽を客観的に見つめたい思いが,音楽心理学の研究に向わせたのでしょうか。

高橋 授業で出会ったことでは,そういう部分が大きいかもしれませんが,それより大学院2回生のときに,担当の教員が変わったことの影響が大きいですね。新しく来られた森下修次(もりした・しゅうじ)先生に副論文を指導してもらうことになって,先生と音楽心理学の話をしているときに,「せっかくだからもう少し勉強してみたらいいんじゃないか。」と勧められたんです。

 さらに「京都芸大で専門的に学べるよ。」と言われて,びっくりしましたね。京都芸大って,音大というイメージが強かったから,最初はそういう勉強もできるのかと思ったんです。

interviewer_musicそれが京都芸大に来られるきっかけだったんですね。

高橋 そうなんです。森下先生が,京都芸大で音楽心理学を学んだ卒業生だったんですよ。ただ,すでに大学院に行っているのに,また修士に行き直すのかとか,経済的なこともあるし,随分悩みましたけどね。最終的には京都芸大に行くことに決めたんです。

interviewer_music京都芸大に来られた時の印象を教えてください。

高橋 初めて来た京都芸大は,すごく落ち着いた雰囲気だった印象があります。京都という土地柄や,総合大学と比べたら規模が小さいことも影響しているんでしょうけど。あと,学生が勤勉で,本当によく練習するし努力していますよね。普段は食堂とかでしょうもない話(笑)ばっかりしている人が,いざステージに立つとプロ級の演奏をすることが,単純にすごいなあって思ってました。

 それに,少人数なところがいいです。教員が,学生の顔と名前をきちんと分かっていることは大きな大学ではあまりないですよ。授業の雰囲気もアットホームで楽しいものばかりだったし,少人数であるが故のメリットを非常に感じました。良い環境で学べたなと思います。

interviewer_music研究は,どのようなことをされていたんですか。

高橋 最初は,担当の大串健吾(おおぐし・けんご)先生と,音楽心理学の基本的な勉強から始めました。研究に必要な知識も足りなかったし,音が発生する仕組みや音を受け止める聴覚について学んだり,統計など,基本的な研究方法について教えていただいていました。

 私の研究テーマは,ピアノの演奏に関するもので,「熟達者と初心者の演奏はどこが違うのか」ということでした。バイエルなどの初心者でも技術的に難しくない曲では,熟達者の演奏には,初心者には見られない何かがあるから違いが生じるはずじゃないか,それが表現上重要なポイントになっているのではないか,と推測したんです。京都芸大の熟達者ぞろいのピアニストにも,もちろん被験者として協力してもらいました。

 大串先生が,修士生にも学会での発表は絶対するように言われていたので,実験方法を考えたり,結果を検証して理論立てていく作業を,かなり真面目にやりました。

interviewer_music学会での発表は大変そうです。

高橋 初めて人前で発表したのは,修士課程(以下,マスター)2回生の時です。内容は稚拙なものだったでしょうけど,やってみて面白かったです。論文を書くという行為に,充実感を覚えたんです。副論文じゃない論文を書いたのは京都芸大が初めてですし,自分の中で,特別良い印象があったことを記憶しています。

インタビュアー:音楽学部 作曲専攻4回生 春野海

(取材日:2013年11月14日)

Profile:高橋範行【たかはし・のりゆき】大学教員

京都市立芸術大学音楽研究科博士(後期)課程修了。現在、愛知県立大学教育福祉学部准教授。研究・専門分野は音楽教育学,音楽心理学。