菅英三子さん
1. 音楽と出会い,そして京都芸大へ
菅 実家が教会で保育園が併設されていて,その保育園で,地域の音楽教室がありました。毎週,先生が来て,子どもさんが集まり習っていました。母から聞いた話では,2歳半くらいの時に,いつも私が教室で1番前に座っていたそうです。でも,その教室は3歳からなので,「3歳になったら,また来ようね。」と母が言うと,「うん!」と答えるけど,音楽教室の日には,また1番前に座っていたそうです。それで,先生が根負けをしてレッスンを受けさせてくれました。それが音楽との出会いで,音楽教室は4歳くらいで終了しました。
母が仙台に月に1回ピアノのレッスンに通っていて,5歳くらいから一緒に行くようになり,いつの間にかピアノを習うようになりました。それで,ピアノを弾くことも好きになりました。もちろん,歌うこともすごく好きで,学校での合唱や一般の合唱団にも入って,とにかく毎日歌っていました。
小さい頃から,周りに自然に音楽があったんですね。
菅 両親は,もともと聖歌隊仲間で,姉はヴァイオリンを,私と妹はピアノを習っていて,家族全員が音楽が大好きでした。毎年,お正月には,家族で“音楽初め”をするんですよ。その時に練習している曲を弾いたり,合唱したり,讃美歌を1番から全部歌っていくとか,音楽だらけの生活をしていました。
本格的に声楽を始められたきっかけはありますか。
菅 どうしても歌を勉強したいと両親にお願いして,中学3年生の時に声楽を習いに行かせてもらいました。
その時に,声楽の先生から,音楽大学を目指しているなら,合唱と歌の両立は難しいと言われました。また、歌うのも弾くのも好きで,声楽とピアノのどちらを専攻するか迷いましたが,それまで勉強してきて,両方とも努力をしていたのですが,歌はそれを努力と思った事がなく,常に楽しかったので,これは歌かなと思いました。
京都芸大に進もうと思ったきっかけはどういうものですか。
菅 当時,佐々木成子先生が京都芸大で教えておられて,私が高校2年生の時に,仙台で公開レッスンをされました。私が声楽を習っていた教室の先輩が,そのレッスンで野ばらを歌われました。最初に8分音符が4つ出てくるのですが,佐々木先生は,その8分音符のそれぞれの意味を30分位かけて説明し,レッスンされました。それを聞いて,「歌曲の世界はそんなに深いんだ」と高校生なりにびっくりして,その世界を覗いてみたくなりました。
大叔母が京都女子大学で声楽の教師をしていて,「もしあなたが声楽をやりたいのなら,一回聴いてあげるからいらっしゃい。」と言われて,京都まで母に連れられて行きました。大叔母が,体格であったり,声であったり,音楽に対する気持ちなどを見てくれて,音楽を学ぶスタートラインに立てるという合格点を与えてくれました。
その時に,佐々木先生のレッスンを受講してすごく勉強になった事をお話して,京都芸大を目指すことになりました。最初から京都芸大だけで併願はしませんでした。今も佐々木先生にレッスンしていただいています。
今もですか。
菅 はい。「あなた,まだここができないわね。」と言われています。(笑)
京都に御縁があったのですね。
菅 漠然とこういう事が勉強したいと,大学を目指す事もあるでしょうし,大学に入ってから4年間の中で,少しずつ自分がわかってきて,やりたい事が見つかる場合もあるでしょう。大切な事は,どこで誰と出会い,何を学んでいくかという事だと思うんですけど,私は高校の時に,きっかけを頂いたので,迷わず京都芸大を選びました。
京都に来られて,驚かれたことはありましたか。
菅 親戚はほとんど関西にいたので,違和感はなかったですね。私の在学中に京都芸大が岡崎から沓掛のキャンパスに移転したので,両方のキャンパスに2年間ずつ通いました。移転の様子をリアルタイムで見ていましたし,今の講堂が出来て最初の卒業式が私たちでした。その当時,映画館の幕間のニュースに,京都芸大新講堂!と自分達の映像が流れたんですよ。(笑)
授業はいかがでしたか。
菅 子どもの時から,見るもの,聞くもの,全て音楽に結びついて頭の中に入ってきました。大学に入ってからも,語学の授業は,「あの歌詞はこういうふうにできているんだ」というヒントを与えてくれましたし,教養科目も,みんな音楽と結びついたので楽しかったです。
京都芸大の一つの特徴は,学生と先生の距離が近いことです。先生方お一人お一人が学生一人ずつをちゃんとわかって指導してくださる,それはこの大学の素晴らしい所だと思います。
大学時代に葛藤などはありましたか。
菅 オペラ歌手になりたいとか,そういう明確な目標がなくて,純粋に歌が好きで勉強していきたいという事だけでした。だから,卒業したら,地元に帰って,自分なりに勉強は続けて,たまに演奏会で歌う事ができれば良いと漠然と思っていました。
在学中,レッスンはすごく厳しくて,毎週そのレッスンの内容を吸収するのに精一杯でした。その積み重ねであっという間に4年が過ぎてしまいました。
インタビュアー:磯村真綸(音楽学部 声楽専攻2回生*取材当時の学年)
(取材日:2014年12月15日・京都芸大音楽棟にて)
Profile:菅 英三子【すが・えみこ】声楽家
京都市立芸術大学卒業。ウィーン国立音楽大学をディプロムを取得して首席で卒業。
オーストリア共和国学術褒賞,ザルツブルグ市音楽奨励賞,出光音楽賞,青山音楽賞,新日鉄音楽賞,宮城県芸術選奨,文化庁芸術祭賞新人賞等を受賞。
ヨーロッパ・アメリカ・日本の各地において演奏活動を行っている。元京都市立芸術大学音楽学部准教授。東京藝術大学音楽学部教授。