閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

粟辻 聡さん 2/4

2.オーケストラに打ち込んだ大学生活


大学2年生の時,管弦楽法オーケストラの本番で

interviewer_music大学では,どんな学生生活を送っていたのですか?

粟辻 大学に入ると弦楽器は1学年に10人以上いましたから,自分の学年だけでオーケストラが組めましたし,私自身,高校時代は人が足りなかったためクラリネットと指揮の掛け持ちでしたが,人が大勢いるから,自分は指揮に専念できました。増井先生には分奏や合奏の授業を何回もさせていただいたので実践経験を数多く積ませていただきました。

 その他にも,作曲専攻の松本日之春先生(当時)が「管弦楽法」という授業で作られていたオーケストラでも毎週リハーサルをさせてもらっていました。指揮専攻に新入生が入ってきたらしいから,そいつに振らせたらいいんじゃないかということで,まだ増井先生のレッスンも受けてない状態の18歳の私は,いきなり指揮をやらされました。経験不足だったこともあり毎回のリハーサルが緊張の連続でしたが,それが非常に良い経験になりました。

interviewer_music毎日の日課はありましたか?また,こだわりをもって取り組んでいたことがあれば教えてください。

粟辻 基本的にはスコアを真面目に読んでいましたね(笑)。オーケストラの授業に加えて,松本先生のオケのリハーサルが毎週あったので, とにかく曲の勉強を間に合わせるだけでも大変でした。

 特に自分がリハーサルをしないといけない日には,早朝から図書館にこもって勉強していました。ただ,その当時はスコアを読んだ経験もあまりなかったため,どうやって勉強したらいいかもよくわかっていませんでした。当時のスコアを今見たら,何を書いているか分からない書き込みがいっぱいで面白いですよ。悪戦苦闘していたことがよく分かります。

 それ以外の時間は友人たちと食堂でよく大騒ぎをしていました(笑)。

interviewer_music在学中に自主的にされていたことはありますか?

粟辻 自分たちでオーケストラを作って「火曜コンサート」という企画に取り組んだことがありました。そもそものきっかけは増井先生のレッスンを,いつもピアノで受けていたのですが,それをオーケストラで受けてみたいと思い立ち同級生に声を掛けたんです。有志を募り,実際に講堂でやってみました。すると,先生からも色々と指摘や助言をいただくことができ,一回で終わらせるのももったいないという話になり,本番のステージをやってみることになりました。これが私にとって初めての自主企画でしたが,友人達がチラシを作ってくれたり,講堂の照明や音響の調整は非常勤講師の先生方にサポートいただきました。弦楽専攻の学生なんて本当に忙しかったのに皆好意で付き合ってくれましたし,面白いことをやりたいと考えていた人も多かったんです。その時のメンバーたちとは,今でも付き合いが続いています。ちなみに,現在,大学で実施されているオーディトリアムコンサートの原型は,この火曜コンサートなんですよ。火曜コンサートは2回生の時のことで,特に将来の事を考えたりするわけでもなく,楽しかったという印象しか残っていません。その他,その当時の芸祭ではバレエ音楽のプルチネルラをやりましたし,松本先生のオーケストラの本番もありました。10月が火曜コンサートの本番,11月は芸祭,そして11月末に松本先生のオーケストラの本番と続き,12月に定期演奏会が控えていて,それは大変でしたが楽しかったです。2回生の秋は暴れまくったという思い出しかありません。


大学4年生の時,クロックタワーコンサートで指揮

interviewer_music大学時代に仲良くなった人たちとは,やっぱり今でも交流は続いているんですね。

粟辻 先日,大阪交響楽団で初めて仕事をしましたが,同級生がいるので心強かったです。また,大阪フィルハーモニー交響楽団には先輩も同級生もいますから,本当に有り難いことです。緊張感漂う現場であっても,一人でも私のことを知ってくれている人がいると思うと心強いですし,終わった後に率直な感想を聞くことができます。学生時代の交友関係は本当に大事にした方がよいと思います。

interviewer_music大学在学中に,将来の姿を想像していましたか?

粟辻 2回生までは将来像なんて全く考えていませんでした。毎日勉強して,友達と遊ぶのが楽しくて,ごく普通の大学生をしていました。しかし,3回生になってからは,この先自分がどうしたらよいのか分からなくて悩み始めました。将来像なんて本当に白紙で,どうしたらよいのか分からず,大学を出てから東京に行こうかと考えてみたり,高校で非常勤講師を務めたりしましたが,このままでは終われないという思いがありました。そこで改めて自分自身と向き合い,自分が何をしたいのかを見つめ直してみることにしました。そうした時に,自分は元々,西洋音楽発祥の地への憧憬を抱いていることを思い出し,今しかない!と思い, ヨーロッパへの留学を決めました。

interviewer_music京芸出身で活躍している指揮者というと,佐渡裕さんや阪哲郎さんの名前が挙がりますが,お二方とも指揮専攻出身ではないですよね。

粟辻 京都芸大の指揮専攻を出た著名な指揮者はいるのか,という話がしばしば話題に上がることがあります。佐渡さんは管・打楽専攻,阪さんは作曲専攻でお二方とも指揮専攻卒ではありません。以前はこのことを意識することもありましたが,今は考えなくなりました。オーケストラの方々も音楽が始まってしまえば,あまりそんなことは気にされていないと思います。とにかくよい仕事をすることが大事。この指揮者とだったらやれるなと思った瞬間,経歴は忘れていると私は思います。頑張ればどこの専攻だろうと大学だろうと関係ありません。結局,現場で頑張るしかないんです。

インタビュアー:松川創(指揮専攻1回生*取材当時)

(取材日:2016年11月17日・京都芸術センターにて)

Profile:粟辻 聡【あわつじ・そう】指揮者

1989年京都市生まれ。2011年京都市立芸術大学音楽学部指揮専攻卒業。オーストリアのグラーツ国立音楽大学・スイスの国立チューリヒ芸術大学に留学。2015年ロブロ・フォン・マタチッチ国際指揮者コンクール第2位。