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粟辻 聡さん 4/4

4.音楽で人を幸せにしたい


第6回ロブロ・フォン・マタチッチ国際指揮者コンクール 最終審査でザグレブフィルハーモニー管弦楽団を指揮。

interviewer_music今は日本で活動をされているんですか。

粟辻 現在は大阪に住んでいて,基本的には日本が拠点です。ヨーロッパの方では,2017年の2月に,マタチッチコンクールの入賞記念としてマケドニアフィルとのコンサートがありました。また同年9月には,留学していたチューリッヒ芸大の卒業試験でヴィンタートゥール・ムジークコレギウムというスイスのプロのオーケストラを指揮させてもらいました。最近は日本各地のプロオーケストラから少しずつお仕事をいただけるようになってきました。ただ,コンクール等への挑戦も年齢制限にひっかかるまではやろうと思っています。海外留学してから各地のコンクール情報が入るようになりましたから,やれるだけやろうと思っています。何のチャンスにつながるかは分かりませんからね。

interviewer_musicどんなビデオを送っていますか?

粟辻 自分が良く映っている映像をつなぎ合わせたアピール映像を作っています。その映像はyoutubeにもアップしています。今は全部ネットで対応できるから,極端な話ですが海外のコンクールであっても締め切りの10分前でも申請できます。

interviewer_music家にいる時はどのように過ごされているんですか。

粟辻 スコアを読んだり,楽団のリハーサル等を見学しに出掛けることもあります。スコアを見ているだけでは分からないこともありますから,そんな時はリハーサルを聴いて理解するしかないと思います。それから積極的にベテランの方に話を聞いてみたらよいと思います。私は未だに先生方に教えを乞うてばかりですが,我々だって後輩ができた時にはそうして教えていく役割を担うべきですからね。

interviewer_music気分転換のためにしていることはありますか。

粟辻 水泳や散歩。たまに古畑任三郎を見る(笑)。あと,落語を見るとかね。落語好きなんですよ。中でも桂枝雀師匠が好みです。落語は勉強になります。筋があって,ストーリーがあって,音楽と一緒。立川談志師匠が喋っているのと,枝雀師匠が喋っているのと,浮かんでくる絵が違いますものね。西洋音楽と結構似ているところがあると思います。


マケドニアフィルハーモニー管弦楽団との演奏会

interviewer_musicこれから先やっていきたいことは何でしょうか。

粟辻 目先のことでいうと,とにかく良い仕事がしたいということに尽きます。もちろんコンクールにもまだまだ積極的に参加したいと思っていますし,またチャンスがあればヨーロッパでも仕事をしたいです。でも,まずは目の前の仕事に集中して,とにかくよい現場にすることが第一です。話がいただけるなら,合唱でもオーケストラでもプロでもアマチュアでもこだわりはありません。もちろんプロとアマチュアでは技術レベルは全く違いますが,音楽の本質の部分は一緒だと思っていますし,目の前の人たちといい音楽を奏でたいという一心です。自分が一生懸命音楽に取り組むことで,相手も幸せになってくれたら嬉しいですし,聴いていただいた方にも幸せを感じていただけたら尚のことです。指揮を振らせていただけるのであれば,どこにでも行きたいですね。

interviewer_music粟辻さんは,増井先生の真面目さを引き継がれていると思います。

粟辻 それはあると思います。増井先生との出会いは自分にとって本当に大きかったです。増井先生からは指揮に関する技術的なこと以上に,ごまかさずに真面目に取り組むことの大切さを学ばせていただきました。私はのだめカンタービレの千秋先輩のようにイケメンでもなく,そういった意味でのセールスポイントはあまりありませんから(笑),とにかく真摯に取り組むしかありませんし,自分だけでなく相手にも充実感を感じてもらうことが何よりも大切だと考えています。指揮ができる人なんて日本国内だけを見回してもごまんといると思いますし,指揮科に行っていなくても指揮が上手な人はたくさんいます。その中でやっていかないといけませんから,何がしかの信念を持つことは必要だと思います。

interviewer_music在学生と受験生にメッセージをお願いします。

粟辻 私が京都芸大を受験した時は,指揮専攻には3人の受験者がいました。私は受験に取り組むスタートが遅かったし,高校ではクラリネット科でしたから合格するとは思っていませんでした。それでも合格できたのは,しょげることなく思いっきり力を出したのが良かったんだと思います。受験生の皆さんは,周りと比べることなく,良いところも悪いところも全部入試で出したら良いと思います。

 京都芸大は良くも悪くも競争意識が薄くて,のんびりしてはいますが,素晴らしい先生が大勢いらっしゃいますし,やはり恵まれた学校です。在学生の皆さんは,この有り難さを常に感じていて欲しいです。学生時代に音楽に真面目に取り組んだ経験は,世の中に出た時に必ず役に立ちますから,とにかく一生懸命取り組んで欲しいですし,客演してくださる指揮者の先生たちからも多くのことを盗むつもりでやって欲しい。京都芸大はローカルで人が少ないですが色濃い教育を受けられる場所です。受け身にならずにチャンスだと思って楽しむつもりで学生時代を過ごしてください。私は濃密な時間を過ごすことができました。

インタビュー後記

 指揮科の先輩に同じ「そう」という名前の先輩がいる,という話は前から聞いていて,またどの先生も「あわそう(粟辻さんのあだ名)は良い奴だ」と口を揃えて言うほどの評判でしたから私は出会う前から一方的に先輩として親しみを感じていました。ですからインタビュアーを務めることになり,ようやく出会えるのかとわくわくしました。

 そしていざ当日出会った粟辻さんは,私の想像よりも一回りも二回りも懐の大きい方で,粟辻さんとお話した時間は,インタビューしているということを忘れるほどに楽しい時間で,あっという間でした。在学中の話から,先輩・後輩だからこその踏み入った話まで,幅広く話していただきました。

 印象に残っているのは,そのインタビューの間,粟辻さんと私だけが盛り上がっているのではなく,その場に立ち会ってくださった事務局の方々も笑顔であったことでした。その場の雰囲気が和み,人が笑顔になる。その空気感を生み出していたのは粟辻さんの落語家のようなお話しぶり,そして人柄であったことは間違いないでしょう。

 「指揮者」という音も出さない特殊な役割を担う生き方を,その振る舞いから教えて頂いたように思います。 私の今後の学生生活,そしてその後の人生において,その振る舞いを心に留めて生きたいと思えるインタビューでした。

松川創(指揮専攻1回生*取材当時)

(取材日:2016年11月17日(※)・京都芸術センターにて)
(※)内容の一部は2017年9月末現在の情報を基に加筆修正しています。

Profile:粟辻 聡【あわつじ・そう】指揮者

1989年京都市生まれ。2011年京都市立芸術大学音楽学部指揮専攻卒業。オーストリアのグラーツ国立音楽大学・スイスの国立チューリヒ芸術大学に留学。2015年ロブロ・フォン・マタチッチ国際指揮者コンクール第2位。