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安田 直己さん 3/4

3. 苦しい時期を越えてフィンランドへ


PAC在団時,打楽器同僚たちと。

interviewer_musicフィンランドにはどのように辿り着いたのでしょうか。

安田 青山新人賞を受賞し,その副賞として海外留学のための奨学金をいただいたので,大学院を修了してからPACオーケストラに入団するまでの半年間の空き時間を利用して,3箇月程ドイツとオーストリアを訪ね,現地でプライベートレッスンを受けたり,本場の演奏会を聴いて過ごしました。それまでは海外に興味はありましたが英語が苦手だったこともあり,実際に活動するイメージは全く持てなかったのですが,西洋音楽をやるなら一度は本場を見るべきとの思いで現地を訪ねてみたところ,音楽を取り巻く環境や文化,そして演奏もヨーロッパと日本とでは全く異なることを肌で感じることができて本当に良い経験になりました。その後PACオーケストラに3年間在籍し,演奏活動と並行して国内の他の楽団のオーディションを受けていました。ただ,この時期はティンパニのポジションが空いていてもオーディションが行われないことも多く,自分の力不足もあり合格には至りませんでした。

 入団2年目に今の奥さんと出会いました。彼女が外国人であることに加え,PACオーケストラのメンバーも半分は外国人でしたから,彼らとコミュニケーションを図る中で必然的に英語を話す機会が増え,少しずつ話せるようになりました。それと同時に海外での活動に対する心境も変化し始め,国内だけにこだわらず海外のオーディションも受けるようになりました。

 PACオーケストラを任期満了で退団した後,2年程フリーランスで活動しました。当時の住まいは関西でしたが,東京にティンパニ奏者として呼ばれることが多く,月の半分は東京で過ごす生活を送っていました。呼ばれた仕事は好評価をいただくけれどオーディションはなく,先行きが見通せないまま,とりあえず与えられた仕事をこなす日々が続きました。かろうじて音楽で生活はしているけれど,この状態のまま家庭を持つことは厳しいだろうし,そろそろ諦めるべき時期が来たのかなとも考え,精神的にかなりしんどい時期でした。大学入学以降,失敗も色々ありましたが概ね順調に歩みを進めてきていただけに,焦燥感も大きかったです。


フィンランド放送交響楽団の打楽器同僚たちと。

 私は留学経験がなかったため海外からのオーディションの招待状はほとんど届きませんでした。履歴書を送っても,キャリア面もさることながら居住地が日本ということもあり,なかなか声が掛かることが無かったんです。そうした中でオーディションに関して北欧はチャンスがありそうだという話を聞き,あちこちにアプローチを図ってみました。とりわけフィンランド放送交響楽団は書類審査の前にDVD審査が行われるため,書類審査で落とされることはありません。応募したところDVD審査をパスし,オーディションに呼ばれ,採用が決まりました。もともと北欧には良いイメージがあり,フィンランドの他にスウェーデンも受けましたし,他にもアメリカやカナダにもアプローチしていましたが,選択基準は自分がその国に暮らしてみたいと思えるかどうかという点でした。フィンランド放送交響楽団には2014年から所属し,現在に至りますが,学生時代は日本での活動をイメージしていましたから,今のポジションに辿り着くことになるとは想像もしていませんでした。

interviewer_music今もドラムは続けられてるんでしょうか?

安田 今でも機会があれば進んで演奏しています。それを生業とするプロのドラム奏者にはとても歯が立ちませんが,ドラムはオーケストラでも必要ですし,演奏が多様化していく中で,技は色々持っておいた方がよいと思います。私は3回生の頃にオーケストラでドラムがある程度に叩けるようにすることと,リズム感を習得するために取り組みましたが,ドラムを学んだことで上半身の安定感が増し,結果的にティンパニやマルチパーカッションの演奏にも良い影響が及んでいます。

インタビュアー:池内里花(音楽学部 管・打楽専攻4回生*取材当時)

山田春佳(音楽学部 管・打楽専攻2回生*取材当時)

瀬之口翔也(音楽学部 管・打楽専攻2回生*取材当時)

重松 歩(音楽学部 管・打楽専攻1回生*取材当時)

(取材日:2018年1月5日・本学音楽研究棟にて)

Profile:安田 直己【やすだ・なおき】ティンパニ・打楽器奏者

1984年京都府出身。2007年京都市立芸術大学卒業。卒業演奏会に出演。2009年同大学院を首席で修了。大学院賞を受賞。(公財)青山財団の助成を受けベルリン,ウィーン,ストックホルムにて研鑽を積む。兵庫芸術文化センター管弦楽団ティンパニ・打楽器奏者を経て,2014年にフィンランド放送交響楽団に副首席打楽器奏者として入団,現在副首席ティンパニ奏者を務める。2008年度青山音楽賞新人賞受賞。兵庫芸術文化センター管弦楽団のリサイタル公演,NHK-FM公開収録「リサイタル・ノヴァ」等に出演。2017年度京都市立芸術大学非常勤講師。