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安田 直己さん 4/4

4.今も現在進行形


 

interviewer_music今後の夢をお聞かせください。

安田 オーディションに受かって2017年の9月に楽団内のポジションが副首席打楽器から副首席ティンパニに変わりました。ようやく自分の夢だったティンパニ奏者になれたと言えるようになりましたが,これがゴールではなくて,ここから改めてオーケストラを学んでいきたいと考えています。放送交響楽団の公演には毎回テレビやラジオ中継が入りますし,ライブストリームで配信されますから,自分の演奏の様子を見返して反省することができるので,自分自身の成長に繋げることができます。これまでに出会った人の中で尊敬できる人は,いつまでもずっと成長しているイメージがあります。以前に小澤征爾さんが主宰される小澤塾に参加した時,高齢の小澤さんが,曲に取り組むに当たり新たな挑戦を試みようとされる様子を見て,齢を重ねられても変化を恐れない姿勢に驚きました。小澤さんに限らず,凄いと思える人に共通するのは経歴やポジションに拘らず前に進む気持ちを持っている点です。自分に照らし合わせれば,ポジションが決まったことに安心していてはダメだと思っています。

 演奏活動に関してはソロとアンサンブルの方も続けていきたいです。特にソロに関しては,準備は大変ですが充実感もありますし,演奏家としてこの先も続けていかないといけないと感じています。

 楽団員になり3年が過ぎ,フィンランドでの生活も安定してきたところです。フィンランドと日本ではオーケストラの環境はもちろんですが,演奏で良しとすることも大きく違います。ドイツやフランス,アメリカに渡った人は多いですが,北欧は少ないので情報も少ないと思いますから,私が現地で感じた良さを日本に持ち帰って,京都芸大の学生はもとより次世代に伝える橋渡し役になりたいとも思っています。


フィンランド放送交響楽団でのリハーサルの様子。

interviewer_music在学生にメッセージをお願いします。

安田 とにかく英語を学びましょう(笑)。フランス語でもドイツ語でもいいですし,海外には目を向けておくべきだと思います。海外に出ずとも日本で十分学べるよという人もいるし,私自身そう思っていましたが,いざ海外で生活するようになってその考えも変わりました。日本の打楽器奏者のレベルが高いのは間違いありませんが,日本で学んだ後に海外の空気を吸って帰国した人の演奏と日本でしか学んでない人の演奏ではだいぶイメージが違います。西洋をルーツとする音楽に取り組む以上は海外で学んだ方がよいですし,少なくとも現地の空気は味わっておくべきだと思います。音楽は人間が生み出すものですから,当然に人々を取り巻く環境や生活,言葉に関係している部分があります。例えばフィンランド語の単語はどれも第一母音にアクセントがありますが,シベリウスの曲を演奏する上でのヒントになっていたりします。(アクセントなしのトレモロでも出だしをはっきり入る等)こういうことって実際に住んでみたり,見てみないとわからないし,国によって人々の性格や特徴も異なります。私は外国語に対する苦手意識もあって海外に出るのが遅くなりましたが,もっと早く行けばよかったと思っています。ですから学生の皆さんには,興味がある国があれば怖がらずに行って欲しい。別にずっと海外で頑張ろうなんて思う必要はなくて,合わないなと思えば日本に帰って来ればよいだけのことです。

 「攻めていこう」と言ってあれこれ挑戦し,失敗することも何度かありましたが,それでも後悔はありません。特に学生の内はプロセスが大事だと思いますから,失敗は恐れずに挑みましょう。仮に失敗したとしても,後ろを振り返ってみれば必ず前よりも成長した自分がいるはずです。これを繰り返していけば,気付いた頃には素晴らしい音楽家になれるんじゃないでしょうか。私もまだまだ現在進行形です。


フィンランドにあるムーミンランドにて。

interviewer_music京都芸大を目指す受験生にメッセージをお願いします。

安田 私にとって京都芸大は音楽を学ぶ上で非常に良い環境でした。カリキュラムはもちろんですが,学生が少ない分,先生や先輩・後輩を含めた学生間の距離が近く,学生同士で切磋琢磨し合えます。京都芸大に入学していなければ,自分の進んだ道は今とは異なったものになっていたかもしれません。受験生の皆さんが京都芸大で学びたいと考えているのであれば,目指している場所は正しいと思います。

 大学受験を考える時点で自分の将来のことを考えておいた方がよいと思います。自分なりのビジョンが曖昧なまま先に進んでいくと,どこかの段階で道に迷うことになります。途中で路線変更することは全然構いませんから,早い段階で自分の将来について明確なプランを持つことをお勧めします。

インタビュー後記

音楽に対しての向き合い方,そして音楽家として生きていく大変さなどたくさんの貴重なお話を伺うことができました。 そして,印象に残ったことは「今の現状に満足をしてしまうとそこで成長は止まってしまう」という言葉です。私自身も,どうしても自分に甘えてしまう時があり,これでいいかと諦めて思ってしまう時があるのですが常に向上心を持って自分の掲げた目標に達成できるようこれからも頑張っていきたいと思います。

池内里花(音楽学部 管・打楽専攻4回生*取材当時)

今回,海外に在住され,普段お話を聞くことが難しい大先輩にインタビューをさせていただき,有意義な時間を過ごさせていただきました。常に前向きな安田さんのお話を聞いて,私も,もっともっと積極的に前向きに頑張ろうと思いました。

山田春佳(音楽学部 管・打楽専攻2回生*取材当時)

私たちがインタビューをさせていただいた方は,私も何回かレッスンを受けたことのある安田直己さんでした。安田さんのユーモア溢れる言葉のセンスで私はインタビューをしているのを忘れたかのように,普通にお話をしている感覚でした。レッスンの時から感じていましたが,音楽に熱い方だなと感じました。自分の決めた道をひたすらに貫いていく精神に感銘を受けました。今回このような実りあるお話を間近で聞けたことをとても嬉しく思います。

瀬之口翔也(音楽学部 管・打楽専攻2回生*取材当時)

在学中に語学をきちんと勉強するべき,と何度もお話されていたのが印象に残りました。それだけ安田さんにとって海外での経験は貴重で,有意義なものであったのだと思いました。

重松 歩(音楽学部 管・打楽専攻1回生*取材当時)

(取材日:2018年1月5日・本学音楽研究棟にて)

Profile:安田 直己【やすだ・なおき】ティンパニ・打楽器奏者

1984年京都府出身。2007年京都市立芸術大学卒業。卒業演奏会に出演。2009年同大学院を首席で修了。大学院賞を受賞。(公財)青山財団の助成を受けベルリン,ウィーン,ストックホルムにて研鑽を積む。兵庫芸術文化センター管弦楽団ティンパニ・打楽器奏者を経て,2014年にフィンランド放送交響楽団に副首席打楽器奏者として入団,現在副首席ティンパニ奏者を務める。2008年度青山音楽賞新人賞受賞。兵庫芸術文化センター管弦楽団のリサイタル公演,NHK-FM公開収録「リサイタル・ノヴァ」等に出演。2017年度京都市立芸術大学非常勤講師。