閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

饗庭 絵里子さん 2/4

2. 音楽学専攻のピアニスト

interviewer_music音響心理学に興味を持ったきっかけは?

饗庭 昔から絶対音感に興味がありました。高校2年生の時に音大の模擬試験を受けてみたのですが,その試験の中にピアノで演奏された和音の種類を答えるという聴音課題がありました。それまで響きのまとまりを聞いて和音を種類として判別した経験がなかったのでとても苦労しました。その時,同じ和音であっても聞く人によって聞こえ方が違うのではないかということに気が付きました。それで,絶対音感を持っている人は和音を響きのまとまりとして聞くのが苦手なのではないかなと思いました。

 大串先生にこのことを話したら,さっそく実験計画をたてるための相談にのって下さって「じゃあ,実験刺激と解答用紙を作っておいて。」と言われました。それで言われたように作成して大串先生にお渡ししたところ,いつの間にか授業でその実験を学生さんにして下さっていて,大量のデータが目の前にあらわれました。

 結果は,やはり絶対音感のある学生は和音の種類を判別することは苦手そうだというものでした。曖昧な言い方になってしまうのは,統計的な解析をやってみたら偶然起きたと見なす確率が少し高い「有意傾向」という結果だったからです。おそらく刺激が簡単すぎたのだと思いますが,ひとつの結果が得られて嬉しかったです。

interviewer_music音楽学では,物理の授業もありますが,苦手ではなかったですか?

饗庭 高校は普通科で物理,生物,地学など一通り勉強していたので,京都芸大でも物理の授業は苦になりませんでした。ただ,プログラミングには苦労しましたね。まず先生の言っている言葉の意味が分かりませんでした。

 例えば大学院の時,当時の指導教員だった津崎実先生がメールに「このプログラムをrunして・・・」と書いておられたのですが,この「run」の意味が分からなかったです。プログラムを「実行する」という意味なのですが,なぜプログラムを走らせるのかと・・・。日本語でもプログラムを走らせると言ったりするのですが,当時はあまりにも未知の世界だったので,戸惑ってばかりでした。ただ,自分でプログラムを書いて実験しないと研究が進まないというので,必要に迫られて頑張っていました。当時,京都芸大の博士課程にいらした松井淑恵(豊橋技術科学大学准教授)さんとは,よく一緒に,うんうん唸りながらプログラミングの勉強をしていました。他にも聴覚の本を輪読したりして,分からない分からないと言っていたのですが,今でも変わらずああだこうだ言いながら一緒に研究をしたり勉強会をしたりしています。

 あと,統計的な解析も最初はよく分からないまま使っていましたね。結局学生の間は,自分の研究で使うものだけ何となく理解していました。研究者になってから,自分で使ったり,他の人の研究の話を聞いたり,論文を読んだりするうちに必要に迫られてだんだんとできるようになりました。


電通大で開催された演奏会(2018)

interviewer_music大学院で音楽学を専攻されましたがピアニストへの心残りはなかったですか?

饗庭 それは全くなかったですね。そもそもピアニストを辞めるという宣言が必要なわけではないですし,音楽学を専攻するならピアノを辞めろと言われるわけでもないので,ピアニストを辞めるという発想がなかったです。むしろ,両方やることにメリットがあると考えていました。もちろんピアニスト専業の人達ほどピアニストとしての仕事を積極的にするわけではありませんが,大学院に入ってからも依頼があれば弾いていましたし,コンクールに出て賞をいただいたり,オーケストラと共演させてもらったり・・・。実際,今でも年に数回は人前でピアノを弾く機会に恵まれています。

 つい先日も,私が勤めている電気通信大学の創立100周年記念として,講堂のグランドピアノが新しくなり,そのお披露目コンサートで演奏の機会をいただきました。京都芸大の時にピアノデュオでパートナーだった浅野未麗さんと再共演して,ものすごく楽しかったので,またやりたいねと話しています。他にも,学会の後には研究者どうしで交流を深めるためのパーティが開催されるのですが,その時にピアノを演奏することもあります。国際会議の時には,共同研究者のお箏の先生と共演したりして,演奏することを楽しんでいます。

 コンサートホールでソロのピアノ演奏会をするのはプレッシャーがあってとても大変ですし,そもそも暗譜を大の苦手としている私には全く向いていません。子どもの頃から職業としてのピアニストになりたいというこだわりはなかったので,このような弾き方が自分にはとても合っています。弾くチャンスがあったらいつでも引き受けようと思っているので,研究の合間を縫って練習は続けています。それに,実験の課題曲を選んだり,自分で実験をやってみるためにも,弾けないと研究もできないんですよね。

【続きは8月21日(水曜日)に公開予定です。】

インタビュアー:池田 菫(修士課程 器楽専攻(ピアノ)2回生*)

松浦佑美(音楽学部 音楽学専攻4回生*)*取材当時の学年

(取材日:2018年12月7日・本学音楽研究棟にて)

Profile:饗庭 絵里子【あいば・えりこ】大学教員

1981年メルボルン(オーストラリア)生まれ。2004年京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専攻卒業。2009年同大学大学院音楽学領域博士課程修了。関西学院大学,産業技術総合研究所(日本学術振興会特別研究員PD)などを経て,現在,電気通信大学准教授。