閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

饗庭 絵里子さん 4/4

4. 広い視野で積極的にチャレンジ

interviewer_music今後の夢をお聞かせください。

饗庭 演奏家は,そもそも研究者のようなものだと思っています。特にプロの方は楽器演奏について,その道を究めておられるわけです。ただ,研究者とは違って論文を書いて学会で成果発表をしないだけで,自分の中に色々な理論を様々な方法で構築していると思いますし,それを演奏という形で発表しています。私は,そんな演奏家と研究者との橋渡し役になりたいと思っています。

 一見,演奏家と研究者は遠い存在のように感じられますが,彼らが究めた技術やノウハウを研究することで,人間が複雑な身体技能をどのようにして獲得し遂行しているのか明らかにすることができると思っています。例えば,どのように演奏するとどのような演奏効果が生まれるのかとか,効率のいい練習方法なども分かる可能性があります。以前ピアノ講師をしていた経験から,生徒の中には楽譜を読むのが得意な子どももいれば,お手本を耳で聞いた方が早く弾けるようになる子どもなど,効率のよい学習方法は様々であることを実感しました。自分に合った方法が分かれば,上達が早まるだけでなく到達するレベルも高まりますし,無駄な練習時間が無くなって,怪我も減ります。時間にも余裕が生まれるので新しいことに挑戦したり,新しい体験をしたりすることで新たな視点を持つこともできると思います。

 これからも演奏家とも一緒になって研究していくことで,演奏家と研究者の関係をもっと密なものにして,お互いに新しい世界を開くことができると嬉しいですね。

interviewer_music京都芸大を目指す受験生や在学生にメッセージをお願いします。

饗庭 色々なことに興味を持っておいてほしいですね。やってみたいと思ったら何でも一度チャレンジすればいいと思います。広い視野を持ってほしいですね。やってみないで分かることなんて,ほとんどないんじゃないかと思っています。親や先生からは練習しなさいと言われ,自分にはこの道しかないと思い込んでしまうかもしれないですが,広い視野を持つことが大切です。人生にはたくさん選択肢があると言う事を忘れないで下さい。色々な事に触れることで可能性は無限に広がっていきます。ピアニストを目指すにしてもピアノ以外のもの,例えば京都芸大には美術学部もあるわけですから,美術学部生との交流も大切にしてほしいと思います。

 今は学際研究と言って,様々な分野の研究者が協力して一つのことを明らかにしていく研究がかなり多くなっています。一つの分野の人が頑張って研究しても分かることが限られてしまいます。例えば,ピアニストをはじめとする演奏家について研究している私が,演奏家とは分野が違うからと接点を持たなければ,演奏家にとっては意味のない研究を続けてしまう可能性もあり得ます。ですから,私は積極的に他分野の人と話をする機会をもっています。自分とは違う分野の人の話だからこそ,違う視点から見ることができて,気づくこともたくさんあります。

インタビュー後記

池田 菫(修士課程 器楽専攻(ピアノ)2回生*)*取材当時の学年

インタビューを通して印象的だったのは,少しでも興味を持ったら挑戦するべきだと,饗庭さんが強くおっしゃっていたことです。

饗庭さんは,日本の伝統文化の「音」を研究されていて,私が今まで音との結びつきをあまり感じていなかったので大変興味深く,途絶えそうな伝統技術も研究者が携わることによって後世に伝え残すことができるというお話にも深く感銘を受けました。

西洋のクラシック音楽を学んでいる私にとって,饗庭さんのお話はとても新鮮であり,日本独自の文化を守っていくことの大切さを改めて感じました。

松浦佑美(音楽学部 音楽学専攻4回生*)*取材当時の学年

「音楽関係の仕事に就きたい。」幼い頃,誰もが問われる質問,将来の夢。この問いに饗庭さんは,こう答えていたそうです。私にはそれが印象的でした。多くの子どもたちが,ピアニストや野球選手のようなプロと呼ばれる具体的な職業を夢見て憧れる時期に,饗庭さんは幼い頃から広い視野で将来の選択肢を見据えてきた方だと感じました。

音楽の道に進めば,誰でも途中で何度も挫折し,自分には向いていないのかと思い悩む日々を経験するのではないかと思います。現状を打開することから抜け出せなくなる日がやってくるかもしれません。しかし,そういう時こそ,違う視点から芸術に携わっている人たちと関わってみると良いのではないかと気付かされました。それができるのが,京都芸大の良さであると私は思います。

(取材日:2018年12月7日・本学音楽研究棟にて)

Profile:饗庭 絵里子【あいば・えりこ】大学教員

1981年メルボルン(オーストラリア)生まれ。2004年京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専攻卒業。2009年同大学大学院音楽学領域博士課程修了。関西学院大学,産業技術総合研究所(日本学術振興会特別研究員PD)などを経て,現在,電気通信大学准教授。