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饗庭 絵里子さん 3/4

3. 感覚を数値化する

ハワイで開催された学会での発表(2006)

interviewer_music電気通信大学では,どのような研究をされているのですか?

饗庭 最近取り組んでいるのは,「演奏技能」,「ヒトの聴覚メカニズム」や「音楽を分析する方法」に関する研究ですね。「演奏技能」では,譜読みを行うためにどのような手がかりを使っているのかとか,プロのピアニストはペダルを踏む深さやタイミングをどのように決定しているのかとか,同じように楽器を演奏しているとしても脳の中で行われている処理は初見演奏が得意なタイプと耳で覚えることが得意なタイプとで違うんじゃないかなどの研究をしています。

 譜読みに関する研究は,去年,論文になったのですが,演奏家は楽譜に書かれた音符を一つ一つ読んでいるわけではなく,複数の音が組み合わせられたときの音程や和音としての幾何学的な特徴や,普段の練習で頻繁に遭遇するかどうかといった確率が頭の中で自然に獲得されていて,それに基づいて予測して読んでいたりすることが分かりました。

 演奏家には当たり前のことかも知れませんが,こういったことを実験して示すことで,人間が技能を遂行するために頭の中でどのような情報処理を行っているのかを明らかにする一助になります。また,どうすれば初見演奏が上達するのか,初心者の人はどういう練習をすればいいのかなど,効率的な練習指針を示すことにもつながりますので,実験に参加して下さった演奏家の皆さんにも貢献したいと思っています。


ギリシャで開催された国際会議での発表の様子(2012)

interviewer_music伝統文化の音について研究もされているとお伺いしましたが,どのようなきっかけで始められたのですか?

饗庭 海外の方と交流すると,日本の伝統文化について聞かれることがよくあります。そこで意外と日本の伝統文化について知らないことにハッとさせられるわけです。ただ,子どもの頃からずっと興味はあって,狂言や能,歌舞伎などをテレビで見たりしていました。とはいえ,鑑賞していただけで,特に何かをしていたわけではなかったです。

 高校生のときに狂言師をしておられる先生に古文を習っていて,教科書にある古文を狂言の言い回しで読んでもらったときに,単なる古めかしい文体で書かれた文字だったものが一気に思いのこもった言葉になった気がして,内容もすんなり頭に入ってきました。やはり私は日本人なのだなと強く思ったわけですが,日本の伝統的な楽器には触ったことすらありませんでした。

 京都芸大に入学したらピアノだけではなくて何かやってみたいと思っていたところ,カリキュラムの中に能楽師や雅楽師の先生に謡(うたい)や龍笛(りゅうてき)を指導いただける授業があるではないですか!喜んでその授業を取りましたね。いざやってみるとあまりにも下手で,聞いていただくのが申し訳なかったのですが,西洋音楽との大きな違いを体感することができました。さらに興味は深まり,鑑賞だけは相変わらず続けています。

 他には,電通大に着任した直後に,お箏の絃の弾きやすさについて研究しておられる先生に出会いました。博士号を持ちながら箏奏者として活躍しておられるその先生と,箏奏者にとって弾き心地のよい弦を開発するため,弾き易さを数値化するような研究を共同で行っています。

 また,掛け軸の修復作業にも立ち会ったことがあります。掛け軸の裏打ち作業は,のりを使うのではなく,和紙とシルクを重ねて叩くことで和紙の繊維が少しずつシルクに絡まりくっついていきます。ちょうど良い力加減で叩くと均等にくっついてはがれない。素人には分からないちょうどいい具合の音が,職人の方には分かると言う事なので,その音を解析したこともあります。

 缶詰の異物検査で缶をたたいたり,スイカがおいしいか叩いてみたりと昔から叩いた音の良し悪しで判断することはたくさんあって,目に見えないものを計る時に音はとても便利です。まだあまり研究されていない分野なので,今後も音楽に限らず色々な事に取り組んでいきたいです。

interviewer_music気分転換にされることはありますか?

饗庭 ピアノを弾くことですね。ピアニストという職業ならピアノを弾くことは気分転換にはならないけれど,研究者である私にとってはちょうどいい気分転換になります。研究してピアノを弾いてまた研究するというリズムがとてもいいバランスです。それに,弾いているとふと研究テーマが浮かんだりして,一石二鳥です。

 他には美術館に行ったり,旅行に行ったり,お菓子を作ったりもしますね。あと,電通大は理系大学なのですが,音楽が好きな先生や学生さんがたくさんいるので,色んなジャンルの音楽の話で盛り上がることがあります。

【続きは8月28日(水曜日)に公開予定です。】

インタビュアー:池田 菫(修士課程 器楽専攻(ピアノ)2回生*)

松浦佑美(音楽学部 音楽学専攻4回生*)*取材当時の学年

(取材日:2018年12月7日・本学音楽研究棟にて)

Profile:饗庭 絵里子【あいば・えりこ】大学教員

1981年メルボルン(オーストラリア)生まれ。2004年京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専攻卒業。2009年同大学大学院音楽学領域博士課程修了。関西学院大学,産業技術総合研究所(日本学術振興会特別研究員PD)などを経て,現在,電気通信大学准教授。