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久門剛史さん 2/4

2. 大学から外の世界へ


タイトル:PAUSE
制作年:2016年
素材:サウンド,スポットライト,電球,木材,アクリル,鏡,アルミ,ジョーゼット,ムーブメント,他
サイズ可変
撮影:怡土鉄夫

interviewer受験生の頃に関心があった専攻分野は何でしたか?

久門 高校時代は家の中に兄が買ったファッション雑誌がたくさんあり,それを見て服のデザインに詳しくなって,何となくファッションデザインのことをやりたいと思っていました。現役合格には至らず,浪人時に時間をかけて情報を集めていく中で,思考を深めたり技術を増やすという目的や,美術表現自体に言語を超えた魅力を感じて,志望を美術科に変更しました。入学後に彫刻専攻に進んだのは,幼少期の頃から絵を描くよりも物をくっつけたりして立体的にして遊ぶ方が好きで得意だったということもあったと思います。

interviewer実際に大学に入ってみて,事前に御自身で想像されていたこととの違いのようなものはありましたか?

久門 高校時代は,芸大ってきっとオシャレな場所なんだろうなと思っていました。でも入学してみると突き抜けた考えをもった同級生や見たこともない大きな作品をつくる先生に唖然とし,でもここで戦っていきたいと純粋に思いました。その後仲良くなる友人は総合基礎実技の最後の課題でミドリガメにマイクを向けて「カメ,鳴けー!」と叫んでいたりしていて。でもそういうのを体感して,自分が社会のなかでオシャレと思っていた価値観はとてもちっぽけな氷山の一角にすぎないのだな,と感じました。その当時は,まだ現代美術とかアーティストとして生きていくとかよりも,どちらかといえばデザイナーになるという意識の方が強かったと思います。実際,大学3年生まではデザイナーになるべく,いろんなことをリサーチしていました。

interviewer学生時代はデザイナーを意識した作品を作っていたんですか?

久門 自分の志向も次第に変化していき,洋服を作るよりも洋服を着た人を取り巻く環境を作りたいなと思うようになったり,軽音部で音楽をしていたこともあって,光や音を扱ってショーの演出やステージ作りをしたいと考えたりもしていました。ですから,その当時は家具的な作品や空間的な作品だったり,作品と人とのインタラクションを意識した作品づくりをしていました。舞台芸術や照明のことを調べたりし始めたのもその頃で,大学の外に出てあちこちに出かけるようにもなりました。今は,インターネットもあるし,Wi-Fiを使える環境が当たり前のようにありますが,当時の彫刻専攻にはまともに動くパソコンさえもなかったから,大阪のでんでんタウンに行ってコンピューターや機材に触れたり,大阪のフェスティバルゲートにあったライブハウス,パフォーミングアーツが体感できる場所に行ったりして,そこで行われていたイベントやワークショップに出入りしていました。京都だったらメトロとか祇園のウーピーズやイースト,メディアショップ,レコード屋といった感じで,そういう場所に行って大学では知ることのできないものを友達と情報共有していました。世の中の変なもの=新しい感覚を自分の足を使って吸収していた感じです。今はまとめサイトとかあるけれど,その当時はそんな便利なものなんてありませんでした。僕は友人3人で大学の近くに住んでいて,そこか北星寮というこれもまた際物の友人たちがたくさん住んでいた山の麓の家で,バイト終わりに夜な夜な集まっては,その日買ってきたCDを朝までループで聞き続けたり,泣くくらい喧嘩したりして感情や情報を共有していました。そんなわけでバイト代の大半はそういう活動につぎ込んでいる状態でした。

interviewer音楽活動にも力を入れていたんですか?

久門 拾った音響機材を集めて壊しながら使い方を適当に覚えたり,大学会館の音響の先生に教えてもらったりしていました。

 映像とのユニットを組んだ(後にSHINCHIKAとして活動)のもこの家に住んでいた時に夜に突然,韓国かどこかのお土産のパッケージを見ながら変なラップが始まって曲ができて,結成したんだと思います。確か2002年です。この時に出会った友人はとても貴重な存在で,今は関西にいたり,九州で農業をしていたり,ベトナムで社長になっていたり様々ですが,当初からとにかく自分の意思と嗅覚を貫き通す存在でした。

インタビュアー:渡邉 瞳(総合芸術学科2回生*)*取材当時の学年

(取材日:2016年10月3日・本学大学会館にて)

Profile:久門 剛史【Tsuyoshi HISAKADO】美術家

1981年京都府生まれ。2007年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。日常に潜むささやかな事柄に着目し,その場所特有の歴史や現象を採集し,音や光,立体を用いてインスタレーションを組み立てる。主な展覧会に「あいちトリエンナーレ2016」(豊橋会場,愛知,2016年),「still moving」(元・崇仁小学校,京都,2015年)「Quantize」(個展・オオタファインアーツ,東京,2014年)。日産アートアワード2015でオーディエンス賞,VOCA展2016では大賞にあたるVOCA賞を受賞するなど,受賞歴多数。大学在学中の2002年よりアーティストグループSHINCHICAとしても活動している。平成27年度京都市芸術文化特別奨励者(2015年)。平成28年度京都市芸術新人賞(2017年)。