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【出演者インタビュー】 茂山千五郎氏に聞く#1

十四世 茂山 千五郎(しげやま せんごろう)

本名、茂山 正邦(しげやま まさくに)。 4歳の時に『以呂波』のシテにて初舞台。その後『三番三』『釣狐』『花子』『狸腹鼓』を披く。現在は『茂山狂言会』『Cutting Edge KYOGEN』、弟茂との兄弟会『傅之会』、落語家桂よね吉との二人会『笑えない会』を主催し、幅広い年代層へ狂言の魅力を伝える。また上海京劇院・厳慶谷や川劇変面王・姜鵬とのコラボ公演など、他ジャンルとの共演も精力的に行う。 平成10年度大阪市咲くやこの花賞受賞、平成17年度文化庁芸術祭新人賞受賞、平成20年度京都府文化賞奨励賞受賞。平成28年 十四世茂山千五郎を襲名。 日本能楽会会員(重要無形文化財保持者総合認定)。

茂山千五郎氏

茂山千五郎氏  ( 聞き手:北脇あず美 関本彩子) ©関本彩子

 

1 茂山先生にとっての〈翁〉

北脇:よろしくお願いいたします。ではまず茂山先生にとっては〈翁〉はどのような演目か、〈翁〉の演目のイメージをお伺いできればと思います。

 

茂山:私たちが受け持っているパートというのは、〈翁〉という一曲の中の三番三という部分にはなりますが、やっぱり〈翁〉は「能にして能にあらず」と言われるぐらい儀式的なものです。お正月や、能の会の初回とか、そういうときに演じられるものですよね。いわゆる天下泰平、国家安静を願う演目ですので、そういうイメージがあります。格式高いというか、厳かな曲でもあると思います。劇的な部分はなく、特に最初の〈翁〉では天下泰平、国土安全。三番三はどちらかと言うと、五穀豊穣を記念する舞になります。そういう儀式的な演目ですよね。

 

北脇:〈翁〉の中でも、最初の翁・千歳と、三番三では少しずつ役割が違ってくるということですね。

 

茂山:そうですね。

 

北脇:特に三番三は五穀豊穣のイメージと結びついていますね。特にどのような部分から、そのような五穀豊穣のイメージが出てくるのでしょうか。

 

茂山:翁の面と三番三の面については、「黒色尉」と「白色尉」という呼び方をしております。諸説あるそうですが、〈翁〉の白色尉は天下泰平、黒色尉は五穀豊穣。三番三の黒色尉の方が作物の神様というか、そういうイメージがあります。神聖な白の神様と、それに対して黒と言うと、土着的なイメージがあったりします。 三番三の舞も揉ノ段と鈴ノ段という二つに分かれるんですが、揉ノ段というのはすごく足拍子を踏むんですね。「三番三を舞う」っていう言い方もしますけど、どちらかというと私たちは「三番三を踏む」という言い方が多かったりするぐらい、足拍子があります。それで、この足拍子がいわゆる大地を耕す、掘り起こすというイメージに結びついていて。鈴ノ段では鈴を振りながら、舞を舞う。これは種を蒔いているイメージがありますので、そういうところから五穀豊穣というか、土着的な祈りのイメージが三番三の方にはありますね。

 

関本:私が見せていただくと、すごく力強くて、どちらかというと民衆の芸能というイメージを持ちました。どちらかというと翁の方は将軍だとか、身分の高い人がおさめていくようなイメージがあるんですけど、狂言方の方がされる芸能というのは、民衆の力強さとか、そういうものを象徴しているのかなと。能ができる前の芸能とのつながりっていうのはあるんですよね。

 

茂山:〈翁〉っていう演目自体がそうですね。能よりも延年であったり、そういう儀式的なものを取り入れていますので。白色尉は本当に神様っていう感じで、黒色尉は土着の、その土地土地についているような神様というイメージですね。

 

関本:すごく踏みしめるところがあって、若い方だと力強さがあるんですけど、やっぱり歳を重ねていくと、あれは大変になってくるものですか?

 

茂山:大変ですね。

 

関本:迫力があるのが三番三の面白いところで。今年息子さんが八坂の方で出演されましたよね、虎くんの方。

 

茂山:八坂の方はそうですね、次男の方ですね。

 

関本:多分振り付け自体が大変だと思うので、そういうのがまだまだ若々しいなって思いながら見ていたんですけど。ただその踏みしめる力が出せるというか、ありのままの力を出せるっていうのは、若い子の強さだなと思いながら拝見させていただいていました。今ご長男、次男が成長される頃で大変そうですね。どんどん披く演目が出てきていますよね。 北脇:茂山先生ご自身については、最初に〈翁〉の伝授を受けたのはいつごろになりますか?

 

茂山:三番三を披いたのが確か十七歳のはずですね。

 

北脇:そうなんですね。それは息子さんも一緒ですか?

 

茂山:そうですね、大体一七、八歳ぐらいでやりますね。

 

北脇:若い頃、十代のうちに披いておく演目ということですね。

 

茂山:そうですね。

 

2 〈翁〉を演じる場

北脇:今回はホールで演じていただくわけなんですけども、これまでにはどのような場で〈翁〉を演じてこられましたか? やはりお正月や、新年の最初の回であったり、そういう場が多いでしょうか。

 

茂山:そうですね。特に京都ではお正月の三日の八坂神社の奉納もありますし、元旦は平安神宮でもあります。三日には滋賀県の多賀大社の方でも演能しています。あとは宮島の厳島神社のお祭りですね。四月の十日祭というお祭りで演能しています。それから能の会、観世であれば初回でやります。最近神歌になりましたけど、昔は金剛さんも初回は〈翁〉をされていました。そういう特別なときに上演されることが多いですね。

 

北脇:お正月以外だとやはり何かのお祭りであったり、特別な場で演じるということですね。

 

関本:千五郎家というのは、近江の方の井伊家との繋がりで芸能を発展されてこられたと思うんですが、それで近江の方で奉納されるということがあったりするんですか?

 

茂山:どうなんですかね……。やっていたという記録は残ってますけど、明治でやっぱり途絶えるというか、関係性がちょっと薄くはなってますよね。

 

関本:やっぱりそうなんですね。井伊家の方が江戸側というか幕府側で、やっぱりなかなか力がなくなったというか。明治になってしまって、そういうふうに芸能者を囲うような力は多分なくなってしまうと思うので。だからけっこうご苦労されたというか。千作さんとか千之丞さんのご本を読ませていただいたら、皆さんサラリーマンじゃないけど、お仕事しながら家を守ってこられた、という話なんかも書かれていて。

 

茂山:能楽師の家はどこもそうだと思いますけどね。ただやっぱり京都は有力なお寺が多いですから。あとは天皇家も残っていましたし、そういう意味で京都っていうのは、まだましだったっていう話は聞きますよね。

 

関本:そうですよね。今狂言の会でも民衆の方向けというか、ホールとかで色々されているじゃないですか。芸文センターとか、兵庫県のホールでカッティングエッジとかをされていて、どちらかというと一般向けというか、大衆向けのことをされているなっていうのもあります。今回の風流とか〈翁〉は、なかなか面白いっていうわけではないので、やっぱりそういうのを守っていくっていうのはやっぱりお寺とか、そういう宗教的というか、儀式を大事にしていただけるところっていうことがありますよね。

 

茂山:そうですね。

 

北脇:先ほど〈翁〉を演じる場について伺ったんですけども、上演回数としては毎年大体何回ぐらい上演されることがありますか?

 

茂山:決まっているものとしては、先ほどお話しした八坂神社と多賀大社と、観世会の初回と厳島神社は必ずありますので、これは誰かがやっていますね。年間で言うと、それ以外に一回、二回ぐらいじゃないでしょうか。

 

関本:誰かがやるっていうのは、全部を千五郎さんがやられるっていうわけではないですか?

 

茂山:そういうわけではないです。

 

関本:一人前になっている人が持ち回りでやる。

 

茂山:そうですね。

 

関本:最初に金剛流のお話を聞かせていただいたんですけど、〈翁〉はもうほとんど宗家がやるっていうルールがあるそうです。こちらは……。

 

茂山:そういうわけでもないですね。

 

関本:じゃあ色んな方の三番三を見ることができる。

 

茂山:そうですね。ただ、比較的やっぱり僕が多いです。どうしてもそうはなりますけど、私だけというわけじゃないので。

 

関本:やっぱり茂山家以外の方もされるんですか?

 

茂山:たまに、ですね。

 

関本:やっぱり茂山家の方がやるっていうイメージが強くて。〈翁〉されるっていうのは、そういうのは責任というか、守ってきたものがある気がして。

 

茂山:必然的にそうなりますよね。

 

北脇:若い方がされることもありますか? それともやっぱり大体一定の年齢でされるんでしょうか。

 

茂山:披きは若い時代にしますけど、そこから次にやり出すのはやっぱり四十ぐらいからになりますかね。

 

北脇:ある程度経験を積まれた方が行っていく。

 

茂山:そう言えば聞こえはいいですけどね。基本的には順番ですよ。上がだんだん「しんどい」って言うから下に回ってくる、という感じですよ。

 

関本:やっぱりあれは大変ですよね。

 

茂山:いや、大変ですよ。

 

関本:揉と鈴の両方になると、けっこう出ずっぱりだし。

 

茂山:そうですよ。両方でやっぱり三十分ぐらいはありますし。

 

関本:ずっと舞っている感じというか、ずっと動いてるっていう状況で。けっこうな年でやるとなったら、もう相当足腰を鍛えないと。

 

茂山:だから六十、七十……六十代が限界じゃないでしょうか。

 

関本:だから今が一番任される時期なんですね。ところで披きっていうのは、三番三だけではないですね。釣り……。

 

茂山:そうですね。〈釣狐〉、〈花子〉と〈狸の腹鼓〉、〈那須語〉とかも一応ありますね。

 

関本:〈那須語〉はこの前息子さんがやられていましたよね。面白そうだなと思いながら見ていました。もうどんどん成長されているなって思いながら。写真とかで昔見せていただいて、まだ小さいときには双子で同じような顔していたのがだんだん雰囲気変わってきて。大人になってきたんだなって思って見ていました。 北脇:披きものの中では、〈翁〉はどのような位置付けの演目になりますでしょうか?

 

茂山:そうですね。〈釣狐〉よりは先に披きますけど。囃子に合わせて舞を舞うっていうのは、三番三が一番最初になってくると思います。そういう舞物の集大成的なところにはなりますね。

3 〈三番三〉の見どころ

北脇:〈翁〉を十代の頃から稽古されてきたということですが、演じる際に特に心がけておられること、注意されていることがありましたら、お聞かせいただけたらと思います。

 

茂山:先ほど言いましたように力強い舞ですので、そういうところですよね。揉ノ段は勢いですし、それに対して鈴ノ段は最初はすごく静かに入っていきますので、そういう静と動というものを舞い分けるところでもあります。やっぱり農耕とか農業、そちらの方の神様ということもありますので、どちらかというと、あまり綺麗にならずに舞うという感じですね。土着っぽい、土っぽい舞。強直なイメージというのはやっぱり持って舞いたいですよね。

 

関本:強さが大事というか。

 

茂山:そうです。どっちかというとそっちの方が必要かなと思います。

 

関本:整っているっていうよりは、勢いがあって、そこで農作物というか……あれは揉みなので、米を育てているイメージなんですか?

 

茂山:そうですね。米というか、揉ノ段は大地を耕している。鈴ノ段は種を蒔いているという雰囲気ですよね。

 

関本:それで作物がどんどん大きくなって。

 

茂山:祈りを祈念しているという感じはあります。だから綺麗っていうよりは、終始そういう力強いイメージですね。

 

北脇:綺麗にならずに演じるというのは、すごく印象的な言葉だなと感じたんですけども、それは他の演目と比べても違うところですか? 翁と三番三と、他の狂言の小舞に比べると、やはり舞い方にも違いが出てきますか?

 

茂山:そうですね。小舞はやっぱり舞ですから、綺麗な感じ。あとは宴会、酒宴で舞うことも多い。能の仕舞に比べたら、小舞の方が大分面白く、節とかも複雑に作ってあったりしますけど、そういうものと三番三はちょっと違う。一線を画している感じはありますね。

 

関本:かなり大変ですね。小舞で練習しながら、三番三でちゃんと囃子と合わせる。三番三の方が能っぽいというか、謡っぽい感じがするので、それに合わせるというか、リズム感がちょっと変わるのは難しいなって思います。だから、すごく耳が良いというか、リズム感つけないと。

 

茂山:そうですね。でも普段から能の会とかを行っていますので。狂言にも囃子が入るものはいっぱいありますのでね。

 

関本:やっぱり皆さん囃子のお稽古に行ったりされるんですか?

 

茂山:稽古に行っている者はいます。

 

関本:あと謡のお稽古。

 

茂山:謡もありますね。

 

関本:そういうお稽古を通じて自分の中に取り込む。

 

茂山:やっぱり知識として知っておかないといけないことはいっぱいあります。舞台で僕たちが鼓を打ったり、太鼓を叩いたりすることはないですけど、知識として、勉強として習いには行ってますね。

 

関本:そこで色んな繋がりも生まれる。京都の方に習いに行くんですか?

 

茂山:そうですね。

 

関本:そうしたら京都の他の先生方とも仲良くなれる。

 

茂山:ええ。

 

関本:先生はどんな先生に習われたんですか? 茂山:謡は幽雪先生に習いましたし、鼓は曽和正博に。今は東京にいますけど。 関本:曽和の。

 

茂山:曽和ですね。

 

関本:曽和先生は何方なんですか?

 

茂山:鼓です。

 

北脇:先ほど力強さを意識して舞われているとおっしゃったんですけれども、何か特にこだわっておられる場面や仕草はありますか?

 

茂山:うーん……。

 

北脇:全般的に、というところでしょうか。

 

茂山:全体的にそうですよね。

 

北脇:でも足拍子のところはやっぱり印象的ですよね。

 

茂山:そうですね。ただ全部が全部強いわけではなくて、踏み分けをしている。強弱はつけています。「序破急」って言われることがありますけど、舞の動きも同じリズムで動くわけじゃなくて、横へ動くだけでもスピードを変えたりします。そういうところの見せ方ですよね。

 

北脇:序破急、そうですね。三十分演じられるわけですから、ずっと同じ調子で舞うわけではないですね。

 

茂山:あとは腰の入れ方であったり、あげ方であったり、そういうところですよね、

 

関本:腰の入れ方っていうのは、腰を深く入れる。

 

茂山:ぐっと落として。

 

関本:落とすときと、あげるときとがある。

 

茂山:基本的にずっと腰を落として舞っています。そこの腰の入れ方ですよね。あとは 足の運びであったり。

 

関本:そういうのは、摺り足じゃないけど、歩く稽古とかをしっかりされていますか?

 

茂山:基本的にはそうですけどね。それをどこまで意識して舞うかということですよね。

 

北脇:舞を教えてもらうときに、何か注意を受けたこととかは何かありますか?

 

茂山:やっぱりそういう力強さであったり、綺麗であったり、そういうことはよく言われますよね。

 

北脇:特に先生がお稽古されていく中で難しかったところは、体の使い方とかでしょうか。

 

茂山:囃子に合わせて動くっていうのはやっぱり難しいですよね。自分だけのペースではないので。そこで徐々に囃子ものってきますから、そのタイミングであったり、お互いのフィーリングであったり、そういうのは毎回難しいところではあります。

 

関本:囃子方とはやっぱり一回の申し合わせぐらいで、毎回合わせるわけじゃないですもんね。

 

茂山:三番三なんかは、申し合わせはほぼしないです。本番だけでやって、その日一発勝負でやるので。

 

関本:小舞とかだと狂言方ばっかりだから、練習できるっていうのはあるでしょうけど。

 

茂山:当然舞いながらですけど、そこでやっぱりやり取りであったり、そういうのはありますよね。

 

北脇:じゃあその日に本番に出ている方と、即興じゃないですけど……。

 

茂山:合わせる。

 

関本:「これ、早いなあ」とか思う時もありますか?

 

茂山:あります、あります。「乗ってこないな」というときもあります。

 

関本:そういうのって大変ですよね。合わせるというか。

 

茂山:そうですね。でもフィーリングってわけじゃないですけど、お互いがその辺を意識しながらやっているので。

 

北脇:やっぱりそこは舞い慣れている、やり慣れている他の共演者さんとかとの舞台だとやりやすいですか?

 

茂山:そうです。大体やり方とかは分かってくれているので、この辺からこんな感じで早めていきますよ、みたいな。それはイメージとしてはあるので。

 

北脇:ありがとうございます。演じる上で難しいところは今伺ったんですが、三番三の見どころとしては、今おっしゃっていたような、そういう舞の力強さですか?

 

茂山:そうですね。

 

北脇:特にお客様に見ていただきたいところといいますか、先生ご自身が好きな部分であったり、好きな所作であったり、そういうところは何かありますか?

 

茂山:そうですね。鈴ノ段の最後の方で、種蒔きという型があります。ほぼ三番三でしかしない型です。

 

北脇:三番三でしかしない型なんですね。 関本:種蒔きって、あの鈴をシャリンシャリンと鳴らすところ。

 

茂山:鈴を振っているところです。その中で、静から動へ流れていきますので、そこでの高揚感であったり、そういうものを楽しんでもらえればなと思いますね。

 

北脇:そういう静と動のコントラストと言いますか。揉ノ段の力強いところから始まって、鈴ノ段で静かになって、そこからまた盛り上がっていくこのコントラストは、大きな見どころの一つだなと感じます。 関本:翁とのコントラストじゃないけど、翁との違いもありますね。

 

茂山:そうですよね。

 

関本:最初はすごい厳かというか、きっちりしているような雰囲気から、最後はもう力強いのが出てくる。三番三だけ演じられることもありますよね。大槻能楽堂の新春の会で拝見しました。 茂山:そうですね。

 

関本:三番三だけ、というのはあまりない形なんですか?

 

茂山:あまりしないですね。あれは狂言だけの会なので。

 

関本:確かそれは茂山童司先生がされたときで、あれを見るとその年は大体良いことがあるから、何か利益があるような感じがしています(笑) 今年も八坂で三番三を見たから、良いことあるかもと思いました。こんなご縁を頂いて、今年も良いことあったから。こういうインタビューをさせていただく機会とかなかなかないので、こんなふうなご縁をいただけたので、何かご利益がある、三番三を見に行ったら一年良いようになる、という感じで見させていただいています。

 

茂山:ありがとうございます。

 

関本:見ている方からすれば、一年の祈願になる。それこそ八坂神社、あと平安神宮なんていうのは、そういう神社のお参りをした後とか、その前に見に行くような場所だから、やっぱりそれを見られるのはすごく楽しい。今年も天下泰平で、一年が平和でありますように、ということと、その年が五穀豊穣でちゃんとご飯が食べられますようにと、そういうイメージで見せていただいています。 北脇:三番三だけの公演もあるんですね。

 

茂山:公演というか、三番三だけをやることもある、という感じですね。

 

関本:あれは確か千之丞さんになられた最初の年だったかな。だからその記念をされていたような気がします。 北脇:そうなると全然バランス感というか、リズム感もまた違ってきそうですね。 関本:それはそれで良い雰囲気で。そのとき囃子は入ってたかな。

 

茂山:いや、それは入ってると思いますよ。

 

関本:入ってますよね。初めて拝見させていただいたのがその三番三で、今回は八坂で拝見しました。私もそんなによく分かっている方じゃなくて、TTTをきっかけに入ったにわかファンみたいな感じですけど、そんなことで八坂さんにも伺って、見せていただきました。

 

茂山:もともとそういう神社のお祭りとか、神事に帰依しているものですからね。そういうところで見るとまた違った感じですけど、そういうとこで見るのはやっぱり良いなって思いましたよね。

 

関本:ホールはホールでかっこいいですけどね。

 

茂山:やっぱりそういう神事とか、神社の境内とかでやると、「昔はこうだったんだろうな」っていうふうに思います。

 

関本:あの一月の寒い時に、あの境内でやるっていうのは大変ですよね。

 

茂山:寒いのは寒いですけどね。

 

関本:足がかじかむとか、そんなこともあるだろうなと思います。能楽堂やったら、空調とかがしっかりしていて、別にその他も関係なくできそうで。

 

茂山:そうですね。ただ僕たちも子供の頃からそういうところで〈翁〉をやったり、三番三を見たりしてますから、暖かいホールでやると、何か違うんですね。やっぱり〈翁〉って寒いものよね、正月の寒いところであるものよね、っていうイメージはあります。

 

関本:それで寒いところに出番まで待たされて、出てきて。八坂も始まるまでずっと待っていましたね。良い席で見たいと思ったら、早めに行かないと見られないから。全部無料で公開してくださってるから、しっかり見たいと思ったら、一時間とか二時間前ぐらいから行かないと見られないというのがあって。でも、本当に皆さんしっかり演じられて、一年の始まりにやってくださっている。

 

北脇:外でやるっていうのも、ホールの中とではまた違いますよね。風が吹いていたり、外の音が聞こえてきたり。

 

関本:お天気が悪くても、絶対やるんですよね。

 

茂山:やりますね。雪が降っても、雨が降っても。

 

関本:どういう心持ちでされるんですか? 一年を祈念して、ということですか?

 

茂山:年始めだから、っていうことですよね。

 

関本:能楽師さんたちもそういう心持ちというか。一年良いことあるようにと、そういうことを祈願している感じですか?

 

茂山:そんな感じですよね。

 

関本:もう「やるものだ」みたいな(笑) やっぱり一年それがあって、っていう感じで。一月は一番忙しいですもんね。

 

茂山:正月から動いてますのでね。

 

北脇:能楽師のシテ方の方にお伺いすると、やっぱり〈翁〉は他の演目と全く違って、お客様の前で演じるというよりかは、神様に向けて演じる意識がある、と伺うことがあるのですが、それは狂言方の方も同じですか?

 

茂山:そうですね。それは同じですね。

 

北脇:そう聞くと、やはり他とは全然異なる演目だなと思います。他にも他の演目と異なる点として、シテ方は精進潔斎を公演前にされていますね。公演前に別火と、肉類の摂取を避けて、あと鏡の間で儀式をされるということですが、狂言方の場合にはそういう精進潔斎は何かされますか?

 

茂山:今はそこまで言わないですね。

 

関本:やっぱり今は普通の生活も送らないといけないじゃないですか。別に将軍家に仕えているわけでもないから、皆さん公演数も多いし、他の公演もありながらやっておられるから、精進潔斎ってやっぱりそんなにできないものですよね。

 

茂山:昔ほどはないと思います。人によっては肉を食べないとか、幽雪先生は朝に水を浴びて来られている、という話は聞いていますけど。別火ぐらいでしょうか。

 

北脇:ちなみに狂言方、茂山山先生の場合には、別火はいつぐらいからされますか?

 

茂山:もうその日ぐらいです。

 

北脇:そうですよね、それだけでも大変ですよね。 関本:でもそういうのを意識してやろう、という気持ちにはなるような演目なんですか?

 

茂山:そうですよね。次の日に三番三あるし、ちょっとお酒控えておこうかなって。

 

関本:そういう気持ちにさせる演目なんですね。

 

茂山:気持ちを新たにするというか、そういう感じはありますよね。

 

関本:やっぱり演目として特別というか。

 

茂山:毎回そういう特別感はありますよね。

 

関本:「能にして能にあらず」なんて言われてますけど、やっぱり一般の人間からしたら「何が?」というのがあって。それって何なんだろうと、私も分からずに見に行ったら「やっぱり何か違う」っていうのがありました。それが何なのか説明するのはすごく難しいんですけど。

 

茂山:精神的なものなのでね。

 

関本:雰囲気的に。

 

茂山:雰囲気もそうですし、鏡の間のうちで御盃をやったりするにも、別にお客さんに見せているわけではないですので。

 

関本:でもそういうのをやってらっしゃると、別に知らないけど、何か雰囲気が違う気がする。整っているというか。ただ面白いとはまた違う、何か違うなっていう感じがすごいしますね。

 

茂山:儀式、神事的な感じがあるので。

 

関本:やっぱり先祖の方とかからも、それは「大事にしろ」と言われますか?

 

茂山:そうですね。そういうのはやっぱり守っていかなければいけないものですので。

 

関本:千五郎家として守っていく。

 

茂山:それもありますし、全体的にもそうですよね。それがあるからこその能楽であり、そういう相互関係あるので。

 

 

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