閉じる

共通メニューなどをスキップして本文へ

ENGLISH

メニューを開く

【2024年1月公開】 茂山千五郎氏に聞く#3

7「笑えない会」

末広がり

北脇:他分野との先生との関わりについてお伺いしたいんですが、まずホームページを拝見させていただいて、他分野との関わりをすごくたくさん持ってらっしゃるなっていうところが印象的で、それについてお伺いできればと思いました。特に落語については、落語家の桂よね吉さんとの二人会をやっておられます。こちら2012年から活動されているということですが、立ち上げに至った経緯やきっかけはどのようなものでしたか?

茂山:もともとうちの家と桂米朝一門は仲が良いんですね。前の千之丞と祖父千作も、米朝師匠と仲が良くて、色んなグループとか『上方風流(かみがたぶり)』を作ったりしていたところがあって親交が深かったので、僕ももう子供の頃から落語をよく見にいっていた。落語自体好きで、よく見に行くんですね。よね吉さんは僕よりも一つ上なんです。うちの祖父が人間国宝になって、米朝師匠も人間国宝になられたときに、いわゆる国宝二人会みたいなものがあった。どっちも笑いの芸ですから、よく楽屋で一緒になることがありました。その頃はよね吉くんは弟子に入りたてで、鞄持ちみたいことをされていたんですけど、地方だと宴会があったりする。その辺で喋るようになって、親しくなりました。「何かやりたいな」っていう話をして、一回立ち消えにはなったんですが、その十年後、2012年のときにやっぱり何かやろうか、っていう形で始まった会ですね。その前にうちの父とよね吉さんのお師匠の吉朝さんとで「お米とお豆腐」という会をされていて、そういうところでも一緒にはよくなっていたんですが。よくあるコラボ作品っていうのはお互いがお互いの芸能に寄せて作っていくんですけど、「それは面白くないな」って二人で言って。落語は落語、狂言は狂言だけを見せて、全く交わらない二人がいる。

関本:それは面白いですね。一緒にやってるのに何で交わらないの?っていう(笑) 茂山:お互いのことをお互いのお客さんにも知ってほしいなと。僕らの狂言を知っているお客さんにも、落語の良さっていうのを知ってほしいです。それで落語を見に来られるお客さんにも狂言の良さを知ってほしいな、というところですね。 あと落語も狂言も笑いの芸能でありますけど、そればっかりでもないですね。狂言の中でもあまり面白くない狂言もあれば、シリアスな狂言もあったりするので。せっかくやるんだったらちょっとマニアックな会が良いな、というところがありました。 関本:シリアスなものって、どういうものがあるんですか?

茂山:シリアスというか、〈舞楽〉とかもそうですけど、そんなに笑いの要素が多くない。歌とか和歌とか、そういうものを扱っている狂言とかね。普段やっぱりなかなか上演しないような曲をやっていく。よね吉さんの方はネタ下ろしというか、ちょっと大きなネタをやっていく会をしていこうよ、っていうのがもともとありましたね。本当に二十代後半ぐらいから付き合いはずっとあったんですが、十年ほど前に「何かやろうか」って始めた会です。

関本:それは面白いですね。ご本を読んでいて、千作さんとか千之丞さんが歌舞伎に行って、そういうので能楽協会から怒られて、揉めながらも他の芸能を取り入れていこうと頑張ってらっしゃったのを見ていて。そういう方向に行くのかと思いきや、そればっかりになるとそれはそれで面白くないから、また別でそれぞれ違うことをちゃんとする。

茂山:お互いがお互いの分野を真剣に見せるっていう会ですね。

関本:面白いのだけではないっていう。

茂山:そういうのは他にもやっておられますからね。僕たちは何かちょっと違うことをしようかと言っています。

関本:「コラボレーション」って言いつつも、色々なものがありますよね。やり方を変えれば、コラボレーションだけどそれぞれ違うものになる。自分の専門をしっかりやるので、ここに来れば両方見られるんですね。

8 落語との関わり

扇

 

北脇:茂山先生は他分野とも積極的に関わりながら活動されておられますが、特に関わって良かったと思われたり、影響を受けられたりした部分は何かありますか?

茂山:演劇全般はけっこう見に行きますが、やっぱり落語が好きです。どっちかというと、落語は狂言より先に触れあっている気がするんです(笑) 落語はよく聞きます。話芸ですし、一人で座ったまま何役もして演じ分けておられますから。お客さんに伝える想像力や説得力っていうのは、やっぱりすごいなと。少なからず影響を受けていると思います。影響を受けようとか、自分に取り入れようという気持ちであまり見に行ってはいません。それだと先ほど言ったように、そっちに寄ってしまうような気がするので。純粋に楽しみとして見に行って、少なからず影響は受けているだろうなとは思いますね。

北脇:結果的に影響を受けておられるところがあるということですね。 関本:結果的に数を見に行かれてますもんね。お客さんとしてぼーっと見ていたとしても。

茂山:歌舞伎も文楽も面白いですからね。

関本:京都だと見るものもたくさんありますもんね。

茂山:そうですね、やっぱり機会は多いです。

関本:文楽だってそんなに遠くはない。 北脇:例えば文楽や歌舞伎にも話芸や語りと関わってくるところがありますが、そうではなく特に落語に関心をお持ちになったというのは、やっぱり笑いの要素があるから、というところでしょうか?

茂山:そうですね、それは大きいですね。口調であったり、喋り方、間の取り方っていうのは、やっぱりすごいなと。

北脇:いや、すごいですよね。 関本:落語はどういうきっかけで好きになったんですか? 北脇:すごく小さい頃から聞いておられたんですよね。 関本:やっぱりお父様が仲良かったからですか?

茂山:父も好きだったっていうのもあるんですけど、生まれたときはここには住んでなくて、三人別のところに住んでいたんですね。幼稚園は同志社幼稚園に行っていて、車で送り迎えしてくれるんですけど、その車中で父がずっと仁鶴師匠のテープを聞かせてかけていた。それを自分はキャッキャッと言いながら聞いていました。父は米朝師匠と仲が良いですから、小学校の頃から京都府立文化芸術会館で寄せに連れて行ってもらったりしていました。色々な人の落語を聞いて、最終的にはがっつり米朝師匠にハマって……それも小学校ぐらいのことですね。

関本:車の中で落語が聞けるっていう生活はなかなかないですよ。

茂山:多分父に頼んで一番最初に買ってもらった本の全集は、米朝落語全集です。

関本:すごいものを買ってもらっている。CDとか洋楽じゃなくて。 茂山:8巻の速記本を全部買ってもらいました。 北脇:それは小学生の頃ですか?

茂山:小学校ですね。

関本:すごい渋い(笑)

茂山:もうがっつりハマりましたね。

関本:周りのお友達とかは別にそんなに落語には興味ないですよね。

茂山:興味ないです。

関本:友達に聞かせたりとかもしたんですか?

茂山:いや、それは自分で聞いていました。笑い話ですけど、米朝落語全集と上方特選。全部車の中にCDが入ってますし、エンジンをかけたら出囃子が流れます。

関本:すごい(笑) それはよっぽどお好きですね。

茂山:もう好きですね。

関本:それは確かに知らないうちに影響受けますね。

北脇:やっぱりお好きなのは落語でも上方の方ですか?

茂山:そうですね、それが中心ですね。何回か志の輔師匠とも仕事をさせてもらったことがありますので、江戸の方も好きな方は何人かいますけど。

関本:これだけお好きだったら、「笑えない会」をして演目の話とかになっても、どんどん話が合いますね。

茂山:よね吉が知らないことも知っていたりするので(笑) 「あのサゲ何やったっけ?」って聞いてくるので、「何でやねん」と(笑) 何で忘れてるねん、と。

関本:何で狂言方に聞いてくるの?っていう。「君本職でしょ?」っていう話ですよね(笑)そうか、この興味の深さというのはすごいですね。

茂山:こんな商売をしてますから、演劇は好きですよね。人が何かをしているのを観に行ったりする。演劇はやるのも好きですし、観るのも好きです。

北脇:他分野との関わりについて伺ってきたわけなんですけど、今後について考えられていること、取り組みたいことは何かありますでしょうか?

茂山:狂言という芸能は一時期に比べたら認知度は上がって来ていますけど、それでもやっぱりまだマイナーな芸能ではあると思いますので、もっとたくさんの人に狂言の良さを知っていただきたいなと思います。もっと色々なところで色々な人に見ていただきたいなとは思いますね。

北脇:今回も大学での公演ということで、いつもとは違う客層の方も来られるかもしれませんね。今回狂言はありませんが、狂言方の出演はありますね。

関本:狂言にしても、なかなか風流は見られませんもんね。ただ面白いものだけが狂言ではなくて、そういう伝承を踏まえながらのものだっていうことを知っていただけると面白いですよね。

9 読者の皆さまに向けて

黒式尉

北脇:では、最後にこの記事を読んでくださっている方に向けて公演のPRをお願いします。

茂山:〈翁〉は能の中では特別なもので、神事的な面もあるかと思いますが、日本は自然信仰の国でもありますので、そういう神社仏閣でお参りするというのは、日本人がみんな持っている気持ちだと思います。ですので、こういう〈翁〉を見てもらえたら、そこに何か日本人の心に響くものはあると思いますし、それこそ古き良き日本の良さを体験していただける公演だと思います。どんな内容なんだろう、どんな話なんだろう、ということよりも、身を委ねていただいて、日本文化の良さとか自然信仰の良さを感じていただければと思いますね。

関本:今でもそういうことは自然に感じたりはしているんですが、あらためてどういうことなのかが分からないから、〈翁〉や〈三番三〉で自然を感じて敬う、信仰することができて、良い時間になるかもしれないですね。個人の幸せを願うのも良いですよね。もちろん狂言としてやるんですけど、それぞれ公演を見させていただいて、より幸せになったり、より良い一日を過ごせるようになると良いですね。神様は見えないですもんね。

茂山:そうです。

関本:そういうのを感じられる芸能が今も残っているっていうのは、やっぱり日本として誇らしいことだと思います。

北脇、茂山、関本 インタビュー日:2023年9月7日(木曜日)

  • 聞き手・編集:北脇あず美(大学院美術研究科修士課程芸術学専攻)
  • 聞き手・撮影・録音:関本彩子(大学院音楽研究科修士課程日本音楽研究専攻修了生)
  • イラスト:水流さぎり(美術学部日本画専攻)
  • 監修:藤田隆則(日本伝統音楽研究センター 教授)

茂山千五郎氏 ©関本彩子

十四世 茂山 千五郎(しげやま せんごろう)|プロフィール

本名、茂山 正邦(しげやま まさくに)。 4歳の時に『以呂波』のシテにて初舞台。その後『三番三』『釣狐』『花子』『狸腹鼓』を披く。現在は『茂山狂言会』『Cutting Edge KYOGEN』、弟茂との兄弟会『傅之会』、落語家桂よね吉との二人会『笑えない会』を主催し、幅広い年代層へ狂言の魅力を伝える。また上海京劇院・厳慶谷や川劇変面王・姜鵬とのコラボ公演など、他ジャンルとの共演も精力的に行う。 平成10年度大阪市咲くやこの花賞受賞、平成17年度文化庁芸術祭新人賞受賞、平成20年度京都府文化賞奨励賞受賞。平成28年 十四世茂山千五郎を襲名。 日本能楽会会員(重要無形文化財保持者総合認定)。