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【出演者インタビュー】 茂山千五郎氏に聞く#2

4 特殊演目〈松竹風流〉

北脇:今回の見どころの一つ、〈松竹風流〉という演目について、演目の内容についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

茂山:最初に翁の舞があって、翁が帰っていくと、普段はそこから三番三の舞になるんですけど、その間に風流というのが入ります。松の精と竹の精がやってきて、松と竹のめでたいいわれを言って、寿命長寿を祝う謡を謡う、舞を舞うというだけですけど。

 

北脇:時間にすると……。

 

茂山:時間的に言うと十五分もないから、十分ぐらいだと思いますけど。

 

北脇:けっこう短いんですね。

 

茂山:〈翁〉というものをより身近に分かりやすく、めでたくする演目が風流なので。

 

北脇:確かに〈翁〉だけより、松の精と竹の精が出てきたら身近で分かりやすいかも。 関本:分かりやすいというか、明るい感じになりますね。

 

茂山:またちょっと感じが変わりますけどね。狂言方がやってますので、もうちょっとからっとした感じになります。

 

関本:人もたくさん出てきますよね。

 

茂山:地謡が十人と言われています。

 

関本:そうしたら、すごい賑やかになりますね。ただでさえ〈翁〉は人数が多いものではありますけど、さらに十人ボーンって出てきますもんね。

 

茂山:十人が橋がかりに並んでますので、やっぱり普段よりも人が多いなっていう感じがしますね。

 

関本:どんな雰囲気で出るんですか? 衣装とかは私も見たことがないです。

 

茂山:能衣装っぽい、けっこう派手な感じで出てきますね。松と竹の作りものをつけて。本当に能衣装ですよね。

 

関本:けっこうカラフルというか。狂言方ってけっこう色がカラフルですよね。

 

茂山:色遣いは派手です。

 

関本:派手になって、硬い感じの〈翁〉が明るくなりそうな感じがあります。

 

茂山:そうですね。

 

関本:またこの雰囲気が、からかうじゃないですけど……。〈蟻風流〉は蟻蟻蟻……みたいな感じで、からかうじゃないけど、子供が繰り返すような感じで言ってくれる感じがする。松と竹だとどうなるんですかね。松と竹の精が出てくる。

 

茂山:松と竹の精が出てきて、舞を舞うだけですけどね。

 

関本:それはどんな方がされるんですか? 若い方がされるんですか?

 

茂山:別に若いというわけではないんですけど、まだ決めてはいないです。

 

北脇:じゃあ、これからですね。私も全然見たことがなくて……。 関本:楽しみですね。どんなふうになっていくのかなと思っています。 別に面白い、笑えるっていうわけでもないんですよね。

 

茂山:そうでもないですね。

 

関本:雰囲気が明るくなるというか。

 

茂山:めでたくなるだけです。

 

北脇:この風流自体は、上演の頻度はそこまで多くないですか?

 

茂山:多くないですね。特にうちは、ほぼほぼないです。大変そうなんだよね、人もいるし。

 

北脇:そうですね、おっしゃっていましたね。 関本:だから自分の会でやるのがなかなか難しい。

 

茂山:しないですね。また大蔵流ではそんなに残ってないんですよ。和泉流はすごい数が残っています。

 

関本:風流の数が。

 

茂山:風流の数が和泉流は残っているんですけど、大蔵流にはそんなに残ってないので。風流って案外一過性のものが多いんですね。江戸時代に上演があったとしても、もうそのとき一回だけ、っていうのがある。だから、そんなに残ってないんですね。

 

関本:一回きりで終わっちゃう。

 

茂山:そうそう。

 

関本:だからそのときの新作みたいな感じで、新しい何とか風流っていうのができて、一回やって。

 

茂山:もともとは一回やってもう終わりでした。だから和泉さんのところには書いたものが残っていたんでしょうね。大蔵にはあまり残ってないので。

 

関本:一回だけだと、後からは分からないですもんね。 北脇:ちょっともったいないような気もします。

 

茂山:しますけど、そういうものだったんですね。

 

関本:一発芸で大事なやつかもしれないですね。一回やってみて面白かったものも、一回なら面白いけど、二回目、三回目になったら二番煎じで面白なくなる。でも風流があることで面白いというか、明るくなるというか。ある意味〈翁〉だけだと、ずっと見ててもちょっとしんどいですよね。

 

茂山:ちょっと長くなりますしね。

 

関本:〈翁〉ではすごく難しいことをやっているなという印象があって。「世の中が収まりますように」みたいな大きな世界のことを言われてしんどいなっていうのが、何か明るい雰囲気になって「わ、何かいっぱい来たぞ!」みたいな感じで見られるのは、すごく楽しいなって思うんですよね。お稽古はどうやってしていくんですか?

 

茂山:書物はありますので。それに過去に演じた人の映像とかが残っているので、それを見ながら、参考にしながらですね。

 

関本:それと、自分が今持っているスキルを合わせて。

 

茂山:能の本も狂言の台本もそうですけど、セリフから動きまで全部書いて残っているので、それを読めば大体できるんですね。

 

関本:最後に呼吸というか、皆で合わせて。

 

茂山:皆合わせ稽古はしますけど。

 

北脇:初心者の私なんかからすると、型付けと先生の体と動きは全然別物と言いますか、やっぱり直接習わないと分からない部分ってすごくたくさんあるなと思うんですが、そこはやっぱりご経験がおありになって、書物を見たら大体想像がつくというところですか?

 

茂山:基本全部型書きというか箇条書きで記せますので。僕たちが習うのであれば、それを習うということが多いですよね。台本に動きで「シテ幕より出、常座に立ち名乗り、道行き」と書いてあったら、全員その通り動けるんです。基本的にはそれを習う感じですね。それを組み合わせて演じていくっていうのはあります。

 

北脇:じゃあもう普段やってることと、そこまで変わらないと言えば変わらない。

 

茂山:名称は変わらないですよね。

 

関本:千五郎家として守っていく。

 

茂山:それもありますし、全体的にもそうですよね。それがあるからこその能楽であり、そういう相互関係あるので。

 

 

5 風流の上演経験

千五郎氏と聞き手の北脇

インタビューに応じる千五郎氏と聞き手の北脇

 

北脇:先生ご自身は風流の上演経験、もしくは実際に上演されているのをご覧になった経験はありますか?

 

茂山:〈松竹風流〉は五年前ですかね、国立能楽堂三五周年記念のときに三番三として出ましたね。ずっと後ろ向いて座ってるので、実際にはあまり見てないんですけど。一緒にやらせてもらったのはそれぐらいですね。

 

関本:そのときは東京の大蔵流の方が風流をされた。

 

茂山:大藏彌太郎さんと山本泰太郎さん、善竹富太郎さんが風流に出られました。

 

関本:善竹さんというと、神戸の方の。

 

茂山:いや、東京の方の。

 

北脇:風流をご覧になることもなかなかないんですね。

 

茂山:そうですね。過去に国立能楽堂で〈餅風流〉を祖父がやっていますが、そのときは私は行っていないので、うちの家で言うとそれぐらいですかね。もう一つ前の世代の、それこそ圭五郎さんとか、上の世代はやったものの映像は残っています。うちの誰かが行ってはいますけど、うちで残ってるようなものはそのぐらいですかね。

 

北脇:じゃあ上演頻度としてはけっこう少ないですね。

 

茂山:少ないですね。

 

北脇:今回風流をやることについて、周囲からは何か反応はありましたか?

 

茂山:「大変やな」「ああ、やるんや」とは言われました。一回どこかでそういう話があって、ただそれはコロナで立ち消えになった経緯がありました。一回やろうという気にはなっていたので、皆としても一回ぐらいはやりたいなと。やっぱりやっておかないと、残らないのでね。

 

関本:やっぱり伝承というのがすごく問題だなと思っていて、舞台を経験するなり見るなりして、狂言方がそこの空気感をちゃんと知っておく方が良いだろうなっていうのはあります。

 

茂山:やっぱりやっておかないと分からないので。

 

関本:でも十人も連れてくるとなると、けっこう正揃いになりますよね。

 

茂山:そうですね。

 

関本:お弟子さんというか、茂山家以外のメンバーもいらっしゃる。

 

茂山:それは当然出てもらわないといけないですね。

 

関本:色々狂言の方が出てこられるのが楽しみだなと思います。

 

 

6ホール公演にあたっての工夫

北脇:今回の公演は京都芸大の堀場信吉ホールという、主にクラシック用のホールになっています。ですので、能楽堂で〈翁〉〈三番叟〉や〈高砂〉を演じる場合とは、例えば体の動き方とか、声の発生、反響の仕方とか色々変わってくるところがあるかと思うんですけど、何かホールで上演されるときに注意されることとか気を付けておられること、留意されることっていうのは何かありますか?

 

茂山:特にはないんですが、ただお客さんは前からしか見られない。横からの目がないので、何となく前に対してアプローチしていくという感じにはなります。

 

関本:今回角度のあるホールなので、西洋風というか。オペラとかがやりやすいようなホールになっています。あとそんなに広くはないんですけど、大分響き方が変わると思います。天井が高くなるので、声の出し方とかが変わってくるんじゃないかなと思うんですけど。

 

茂山:どうですかね。声が響くというのは楽だと思いますけどね。

 

関本:でも帰ってくる声が違う、という感じはしたりしますか? そういうのは確認しながらやってらっしゃいますか?

 

茂山:三番三とかはあまり気にはしないですね。普通の狂言だとちょっと気になりますけど。

 

関本:今回声を出す場面が少ないんですね。

 

茂山:少ないというか、かけ声だけで言葉として伝わらなくていいので。反響が多いところは、普通に狂言するときの方が大変ですね。何を喋っているか分からなくなるので。

 

関本:ただでさえ古文じゃないですか。だから面白いんですけど、ちょっとしたことが聞こえないと、「何を言ってるんだろう」ってなってしまうので。

 

茂山:だからああいう方が合うのかなという気はします。

 

関本:そうか、今回言葉はないですもんね。別にここに〈福の神〉がついているわけでもないし。風流だけで、風流は本当にリズムというか。 北脇:先ほどおっしゃっていた体の動きについては、前に寄せていくということですか?

 

茂山:前に見せる、ですね。

 

北脇:いつもより身体の向きを変えられるんですか?

 

茂山:それはあまり変えないと思います。

 

北脇:前に見せるというのは、意識を前に持つというところでしょうか。

 

茂山:そうですね。なるべく正対するような感じですね。能楽堂ではこっちにお客さんがおられますが、見せる部分ではある程度こっちにも意識を持ってないと無理です。

 

北脇:ホールの規模も能楽堂よりは大きくなってくるかと思うんですけども、体の動き方とかはいつも通りですか?

 

茂山:そうです。そんなには変わらないと思います。多少オーバーリアクションするぐらい。普段よりちょっと大きく動くぐらいですかね。

 

関本:でも〈高砂〉はアイ狂言はありますよね。

 

茂山:ありますね。

 

関本:そこは言葉ってけっこう簡単なんですか? 北脇:でも長いのは長いですよね。 関本:そこはやっぱり意識しないといけないところですね。

 

茂山:そうですね。だからそこは行ってみてって感じですよね。実際に声出してみて、どんな感じかなと。

 

北脇:アイ狂言はどなたがやるかは決まっていますか?

 

茂山:アイ狂言はまだ決めてはいないです。これから全体的に色々見ながらっていう感じですね。

 

関本:千五郎家も色んな方がいらっしゃいますもんね。今回七五三さんが国宝になられて。七五三さんの演技は面白いので〈二人大名〉か何かのときに、村の刀を奪っちゃう役で笑い方が面白くて。「この人絶対悪い人や!」って思いながら(笑) あの笑い方にもうハマってしまいました。「アハハハ」っていう恐ろしい笑い方。最初は普通の人だったのに、急に笑い出したら怖いし、面白い演技をするおじさんだなと思って見てました。

 

北脇:笑い方で伝わってきますよね。

 

関本:本当にお化けではないけど、面白い人だなって。あきら先生はどっちかって言うと洋風な感じがする。和を期待して行くと、あきら先生は何か違うって思ったりすることがあるんですけど、でも不思議なおじさんが一緒にされている感じがすごい好きです。色々手を伸ばされている感じが素敵だなって思ってます。もちろんあきらさんのところが千之丞さんの次男家でやってらっしゃって、色々破天荒なことをされて、今の地位を確立されているところがあると思うんですけど、どんどん新しいことに手を伸ばされているじゃないですか。やっぱりそういうのはすごいなって思いながら見せてもらっています。

 

 

続き>> 【出演者インタビュー】 茂山千五郎氏に聞く#3


十四世 茂山 千五郎(しげやま せんごろう)

本名、茂山 正邦(しげやま まさくに)。 4歳の時に『以呂波』のシテにて初舞台。その後『三番三』『釣狐』『花子』『狸腹鼓』を披く。現在は『茂山狂言会』『Cutting Edge KYOGEN』、弟茂との兄弟会『傅之会』、落語家桂よね吉との二人会『笑えない会』を主催し、幅広い年代層へ狂言の魅力を伝える。また上海京劇院・厳慶谷や川劇変面王・姜鵬とのコラボ公演など、他ジャンルとの共演も精力的に行う。 平成10年度大阪市咲くやこの花賞受賞、平成17年度文化庁芸術祭新人賞受賞、平成20年度京都府文化賞奨励賞受賞。平成28年 十四世茂山千五郎を襲名。 日本能楽会会員(重要無形文化財保持者総合認定)。

茂山千五郎氏

茂山千五郎氏(聞き手:北脇あず美、関本彩子) ©関本彩子